空海開基と伝わる神仏習合の霊山
重畳山(かさねやま)は、漁師たちが海上で現在地を知るための目印にした「山あて」の山であった霊峰。山頂付近に神社とお寺が隣接してあります。
駐車場に車をとめて参道を歩いていきます。
参道沿いには100体の石仏が並んでいます。
納骨堂。
稲荷神社。
標高は302メートルと低いですが、素晴らしい眺め。
画像中央に写っているのが九龍島。
神王寺。弘法大師の開基と伝えられ、弘法大師はここを開いた後に高野山を開いたとか。
その奥に重山神社。 神仏習合の霊山のたたずまいを今に残しています。
山は重畳山と書きますが、神社は重山と書きます。時代によって重畳山と書いたり、重山と書いたりしたようで、現在両方の表記を残すようにしているようです。
『紀伊続風土記』の古田村の条では重山神社及び神王寺について以下のように記されています(てつの現代語訳)。
○重山権現社
1社2扉 祀神 瀧姫神社・熊野三所権現
本国神名帳牟婁郡地祇従四位上瀧姫神
村の西にある。麓から登り20町ばかりに社がある。古田村・古座浦・西向浦・神川村・伊串村の5ヶ村の産土神で、この辺の大社である。古い棟札に「弘仁元年鹿生鎮守重畳飛瀧大権現密宗空海これを記す」と書いてある。この棟札は古い贋物と見える。土地の人は熊野三所権現を祭るという。考えるに、この神は神名帳に載せてある従四位上瀧姫神であろう。いま重山の西南に姫川があり、姫川村及び姫村がある。みな瀧姫の名を取って名付けたのであろう。これが瀧姫神の証となるであろう。牟婁郡中に飛瀧神があり、瀧姫神がある。棟札を偽造する者は瀧の名が同じなので遂に瀧姫神と飛瀧神とし(あるいは飛瀧神と瀧姫神とが1神であるのかもしれない)、飛瀧神は那智瀧を祀る名とするので飛瀧を那智とし本宮・新宮を加えて熊野三所権現としたと思われる。
いま本地仏、阿弥陀・薬師・観音を安置し、山上に仏道に帰依した者が住する小庵がある。神王寺という。僧侶が真実を乱すので古のことは詳らかでないけれども、瀧姫神を本社として熊野三所権現を合殿に祀るとする、その理由は納得できる(詳らかに神社考定部に出ている)。
現在の祭神は、多岐津姫神・多岐理姫神・市杵島姫神。
社殿横に謎の立石。
『紀伊続風土記』の「神社考定部」には以下のように記されています(てつの現代語訳)。
瀧姫神社
祀神 瀧姫神・熊野三所権現右牟婁郡三前郷古田村重山の嶺にある。本国神名帳に載せるところの従四位上瀧姫神がこれである。土地の人は飛瀧権現と称して祀る。神熊野三所権現という。古田・古座・西向・神川・伊串の5ヶ村の産土神で、この辺りの大社である。社内に蔵する古い棟簡がある。「鹿生鎮守重畳飛瀧大権現弘仁元年密宗空海これを記す」と書いてある。この棟簡は後世の僧侶の偽造であるが、その書体を見ると近世の物ではない。いずれにしても300年ばかりを経た物と思われる。古田村重山の麓に鹿生寺がある。今は鹿勝寺と書く。重畳は重山をいう。
神名帳に飛瀧神があり、また瀧姫神がある。いま那智瀧はすなわち飛瀧神であるという。そうであるならばこの神は瀧姫神であろう。瀧姫神と飛瀧神の神名が似ていることから棟簡を書いた者が混同してひとつとなし、飛瀧をもってこの神の御名となしたのであろう。この神が飛瀧神ではなく瀧姫であるべき理由は、重山より出て坤(※西南※)に流れる谷川を姫川という。下流に姫川村があり、姫川村の南に姫村がある。みな瀧姫の名に取って名づけたのだ。
また重山の南に神野村(古くは神川と書く)があり、また北に古田村がある。フルタと読むが、これは文字に付いて後世読みが転じたので、その元はカフタで、神田の意味だと思われる(古田村領重山の麓にいま現に御供田があって村中の尾崎吉蔵という者が古からこの田を耕す。不浄を禁じ、祭礼以外の神供にこれを用いるという)。また東に古座浦がある。浦の名前の意味は詳らかでないが、これもあるいは神名に取った名であろう。この神は近辺の大社なのでその辺の村名はみな神名に取って名乗ったのであろう。
さて瀧姫神がいかなる神にあらせられるのかというと、那智の瀧すなわち飛瀧権現というので同神をこの地に祀って瀧姫神と称するか、またあるいは異神であるか、これはいまだ詳らかでない。土地の人が飛瀧権現といい熊野権現を祀っているというのは、あるいは伝えるところがあって同神であることからいうのか、瀧姫神は本社で熊野三所権現を合わせ祀ることからいうのか。いま本地仏3体があって社殿も3扉なので、三所権現を祀るというのは理がないことはないが、これらの界はいまどうにも定めがたい。基本は本社1座で熊野三所権現を合わせ祀るということがその理を得るに近い。
『紀伊続風土記』の「神社考定部」に記される熊野地方の神社は、熊野三山と瀧姫神社のみ。瀧姫神社はそれだけ重要な神社であるということでしょう。
参道沿いに弘法大師が掘り開いたというアカ井戸が。
アカ(閼伽)とはもともとは梵語で水のこと。日本では仏に供える水のことをいいます。「閼伽井」で仏に供える水の湧く井戸。
山頂には岩が露出し、それが磐座となって瀧姫神社が祀られていたと伝えられます。
重畳山は今なお霊山の雰囲気を漂わせています。
(てつ)
2014.5.16 UP
2014.5.19 更新
2020.3.20 更新
参考文献
- 『紀伊続風土記 (第1-5輯)』臨川書店
- 熊野古道大辺路刈り開き隊『串本・古座川 本州最南端大自然のパワースポット巡り』串本町観光協会
- 和歌山県神社庁-重山神社 かさねやまじんじゃ-
重山神社・神王寺へ
アクセス:JR古座駅から車で約15分、徒歩約15分 串本へのアクセス
駐車場:無料駐車場あり