■ 旧てつ日記

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◆ 熊野川について


世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に資産のひとつとして登録されている熊野川(くまのがわ)。

熊野川は、奈良県吉野郡の大峰山系を源とし、熊野本宮大社旧社地の傍らを流れる近畿最長(183km)の河川で、河口付近には新宮(熊野速玉大社)や熊野発祥の地ともいわれる阿須賀神社が鎮座しているよ。

熊野本宮大社は現在は高台にあるけれど、もともとは熊野川・音無川・岩田川の三つの川の合流点にある中洲に鎮座していたんだ。
現在地に遷座したのは古いことではなく、明治24年(1891)のこと。明治22年(1889年)の大水害により被害を受けて近くの高台に遷座したんだ。

かつての本宮は、熊野川と音無川に挟まれ、さながら大河に浮かぶ小島のようであったといわれるそうだよ。

徒歩を原則とした熊野詣だけれど、本宮―新宮間は熊野川を船で行き来したよ。
熊野川は「川の熊野古道」だったんだよね。
熊野川は単なる水上交通路ではなく、熊野参詣の道であり、他に類のないであろう「川の参詣道」として文化的な意味でとても貴重なものだと考えられるんだ。

だけど、さ、現状の熊野川を見ると悲しいものがあるよ。
熊野本宮大社旧社地付近では水量が乏しく、船で行き来したことなど想像ができないくらい。
浅く痩せていて、かわいそうなほどだよ。

なんでこんな情けない状態になったかというと、ダムだよね。
ダムを作ったから。

熊野川水系にはいくつもダムがあって、本宮の上流にもいくつもダムがある。

大雨が降れば、放流するから川の水量は増えるけれど水は濁るよ。
雨が止めば、ダムのない川がじきに澄んでくるのに対して、熊野川はなかなか澄んでこないよ。

とても世界遺産に相応しい川だとは思えないよ。
歴史的文化的な面が評価されて世界遺産になったんだけれど、それでもやっぱり世界遺産の川だったらもっと豊かできれいな川であってほしいと思うよね。

発電のこととかがあるから今すぐできることじゃないけれど、熊野川水系のダムは撤去するべきだよ。
10年後くらいには始めてほしいな。
人口少ないんだしさ、火力や原子力以外の環境にあまり負荷をかけないタイプの発電方法(太陽光、風力、小水力、木質バイオマス、など)の組み合わせでなんとかやっていけるんじゃないのと思うんだけれど。
再生可能エネルギーを利用する小規模な発電施設を各地に作って、それらをいくつか組み合わせるようにすればなんとかなりそうでしょ。
撤去したダム本体や堆積した土砂の処理の問題もあるけれど、できるだけ早くやってほしいよ。

せっかく和歌山・奈良・三重の3県で協力して「紀伊山地の霊場と参詣道」を世界遺産にしたんだからさ、熊野川水系のダムも3県で協力して撤去してほしいよね。

ダムの撤去に先駆けて人工林の天然林化を進めなきゃね。
今の紀伊半島は人工林率が高過ぎだよ。
スギやヒノキの葉では雨を止められないし、根の張りも浅い。
だから大雨や台風による土砂災害とかが起こる。
災害が起きないにしても、土砂が流出するから川が濁るし。
今の人工林の半分くらいは天然林に変えていくべきだと思うよ。

土砂災害とかさ、被害が出てからじゃ遅いと思うんだけれどさ。
被害が出る前に人工林を天然林化すればいいのにって思うよ。
大体さ、あんまり傾斜のきつい所にスギやヒノキを植えたってねえ。
素人考えだけれど、被害が出てから復旧のための土木工事するより、被害が出る前に人工林を天然林化するほうが安上がりだと思うよ。

明治・大正期を代表する小説家・田山花袋(たやまかたい。1871〜1930)が、

春の熊野川は美しかった。日本では私は此処を推したいと思う。いかにしても谷が深い。それに熊野川はその両岸を高い絶壁で蔽われているので、とても他の渓谷に見ることのできないような深い気分に満されている。水も飽くまで綺麗で、耶馬渓、富士川、球磨川、多摩川、すべてこれには及ばない

と絶賛した熊野川。

熊野川が再生に向かうとき、不況や過疎に喘ぐ熊野地方も再生に向かうはずだよ。
熊野川は熊野の真ん中を流れる熊野の母なる川だもの。

自然が貧弱になった今、豊かな自然があればそれだけで観光資源になる。
昔は川が観光資源になるなんて考えられなかったんだろうね。
歴史的文化的に重要な価値をもつ熊野川が、清らかで豊かなかつての姿を取り戻すことができたら、なんてことを考えると、何かわくわくしてくるものがあるよ。

熊野がこれから観光でやっていこうと思ったら、歴史的な遺産だけじゃ物足りないと思う。
今の観光客が熊野に何を求めているかといえば、美しく豊かな自然だと思う。
きれいで豊かな川。大樹の森。
豊かな自然が熊野にはある。そう思って来る観光客が多いんじゃないのかな。
自分達の暮らしている場所とは違う何かがあるんじゃないかと思って観光に来るわけだから。
熊野がこれからも観光でやっていこうと思うなら、熊野は自然を再生していかなきゃならないと思うよ。

てつ

2004.9.14 UP
2004.11.7 更新
2005.2.28 更新

◆ 引用文献

神坂次郎 監修『熊野詣 熊野古道を歩く』講談社カルチャーブックス(69)
 引用箇所は14頁。田山花袋の文章をここから孫引きしました。

 

 

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