第3回熊野本宮盆踊り大会のために用意した原稿
2016年8月21日(日)に開催した第3回熊野本宮盆踊り大会のために準備した原稿です。熊野本宮大社旧社地大斎原にて開催。
盆踊り大会の休憩時間中に、10分ほど一遍上人や盆踊りについて話をさせていただきました。
神事から始まります。
こんばんは。
熊野本宮盆踊り大会実行委員会のメンバーの大竹哲夫と申します。
本日はご参加ありがとうございます。お陰さまで第3回を迎えることができました。
これから10分ほど、一遍上人や盆踊りについてお話しさせていただきます。休憩しながら、聞いていただけたらと思います。かき氷、ジュース等の販売もしておりますので、どうぞご自由に移動しながら聞いてください。
そもそも盆踊りというのは、鎌倉時代末期に起こった時宗という仏教の一派が行った「踊念仏」、念仏を唱えながら踊る「踊念仏」が原型だといわれています。
その踊念仏を行った時宗という仏教の一派の開祖は一遍上人です。
そこにある石碑には一遍上人が書いた南無阿弥陀仏の文字が刻まれています。一遍上人は熊野本宮に籠って、夢の中で熊野の神様から教えを授かって、それがきっかけとなり、時宗という新しい仏教の一派が起こりました。
一遍上人神勅名号碑に玉串奉奠
「信不信をえらばず、浄不浄を嫌わず」というのが一遍上人に授けられた熊野の神様の教えでした。
時宗では、一遍上人が熊野本宮で熊野の神様から教えを授かったときから時宗は始まったのだとしています。
ですので、熊野本宮がなければ、一遍上人の時宗はないし、時宗が行った踊念仏もなく、そして踊念仏から生まれた盆踊りもなかったということになります。
神奈川県藤沢市に時宗の総本山の遊行寺というお寺がありまして、そこが盆踊りの発祥の地だといわれています。その遊行寺よりさらに深いレベルで、時宗の始まりという意味で、熊野本宮が盆踊り発祥の地だということもできると思います。
熊野本宮大社宮司による挨拶
今日は8月21日ですが、明後日8月23日は一遍上人の命日です。今からおよそ730年(727年)前の8月23日に一遍上人は亡くなりました。
本宮大社ではこの一遍上人の碑の前で、一遍上人の月命日である23日に、毎月23日に一遍上人月例祭という祭事を執り行なっています。今月も明後日8月23日午前9時頃に行われますが、神社がお坊さんを偲ぶ祭事を行っています。
なぜ本宮大社はお坊さんを偲ぶお祭りをするのかというと、それは鎌倉時代中頃から室町時代にかけて、熊野信仰を全国に広めてくれたのは時宗のお坊さんたちだからです。
時宗は全国的に大流行し、日本の文化に大きな影響を与えました。そしてそのおかげで熊野信仰も全国的に広まりました。だから神社なのにお坊さんのお祭りをします。これはすごいことだと思います。
紀州きのくに盆踊り愛好会
そもそもここに一遍上人の碑が立っているというだけでもすごいことなんです。明治初期に神仏分離、神様と仏様は分けるということが行われて以降、神社の境内地に南無阿弥陀仏の碑を立てるというのは勇気のいることだったと思います。
熊野は神仏習合の霊場であり、神様と仏様を一体にしてお祭りするのが熊野信仰でした。熊野では異なる宗教を共存させてきました。熊野本宮の神様は阿弥陀様でした。
熊野信仰を成り立たせていた神仏習合という信仰の形は明治時代に神仏分離により否定されました。そしてまた盆踊りも世界に恥をさらす風習だとして禁止されました。熊野信仰も盆踊りも明治時代にはその価値を否定されました。
しかし今は明治時代に否定されたものが再び価値を認められるときなのだと思います。だから熊野は世界遺産になれました。盆踊りも日本を代表する伝統芸能として東京オリンピックで披露しようという計画もあるようです。
途中、和歌山県串本町出身の演歌歌手、小芝陽子さんの歌謡ショーも
熊野本宮踊り(ハイヤーハァ踊り) 田辺市指定無形民俗文化財
世界遺産とは世界的に見て価値のあるものを人類共通の財産として守り、そして未来に伝えるというものです。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)という国連の専門機関が行っている活動のひとつです。
ユネスコの目的は、教育、科学、文化を通じて世界の平和と安全に貢献するということ。そして、そのユネスコの活動である世界遺産も、その大きな目的はもちろん世界の平和と安全への貢献にあります。
ですので、世界遺産のある地域の住民は、自分たちが地域で行っていることが世界の平和と安全への貢献であることを意識する必要があります。
世界各地で様々な紛争があります。それらの民族紛争や国際紛争などは宗教の対立が大きな問題となっています。もちろんそれだけが原因ではありませんが、宗教の対立が問題の解決をより困難なものにしています。そういう状況を考えると、いま世界に必要とされるのは宗教の共生ということだと感じます。
演歌歌手、小芝陽子さんの生歌で盆踊り!
世界各地の紛争に対して私たち一個人ができることはほとんどなく、ほとんど無力ですが、それでも熊野では異なる宗教を共存させてきたんだということを情報発信して多くの人に知ってもらうことは、ささやかながらも世界にとって意味のあることだと思います。
ここは世界遺産の神社の境内地です。神仏習合の霊場でした。この場所で盆踊りを踊る、もともと仏教行事であった盆踊りを踊るという、今行なっていることがそのまま世界に向けて宗教の共生を訴えることになります。
ユネスコの世界遺産の地にふさわしい文化的な取り組みです。
この後、また盆踊りの曲を流します。ぜひみなさま踊りの輪に加わって踊りを楽しんでください。とくに観光でお越しのお客様、いらっしゃいましたら、ぜひ踊ってください。世界遺産の神社の境内地で盆踊りを踊れるなんてなかなかないことだと思います。
これで私の話は終わります。ありがとうございました。
(てつ)
2016.8.22 UP
2021.5.11 更新