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◆ 平家物語8 平忠度の最期


平忠度/月岡芳年画 『平家物語』巻第九、「忠度最期」を現代語訳。

 平忠度(たいらのただのり:?〜1184)は、平忠盛の六男。清盛の異母弟。薩摩守(さつまのかみ)。武芸にも歌道にも優れた武将でした。妻は第18代熊野別当湛快(たんかい)の娘で、湛増(たんぞう)の妹。

 忠度は熊野生まれの熊野の育ち。熊野川沿いの音川が生誕の地と伝えられます。忠度の母と妻についてこちら

 薩摩守忠度は、一の谷の西手の大将軍でいらっしゃったが、紺地の錦の直垂(ひたたれ)に黒糸おどしの鎧を着て、黒馬の太くたくましいのに、ゐかけ地(漆塗りの上に金粉をふりかけたもの)の鞍を置いて、お乗りになっていた。

 その軍勢百騎ばかりのなかに取り囲まれて、あまり慌てず、ときどき馬をとめて戦いながら落ちていかれるのを、猪俣党(いのまたとう)の岡辺六野太忠純(おかべのろくやたただずみ)が目をつけ、馬に鞭打ちあぶみをあおり、追いつき申し上げ、「そもそもいかなる人でいらっしゃいるのですか、お名乗りください」と申し上げたので、「この隊は味方だぞ」と言って振り仰ぎなさったが、兜の中を覗きこむと、お歯黒で歯を黒く染めている。

 味方にはお歯黒をしている人はいない。平家の公達でいらっしゃるにちがいないと思い、馬を押し並べてむんずと組んだ。これを見て、百騎ほどある兵たちは、諸国から徴収して兵としたものなので、一騎も残らず我先にと逃げ去った。

 薩摩守は「憎い奴だな。味方だと言ったのだから、味方だと思えばよかったのだ」と言って、熊野育ちの大力の早業でいらっしゃったので、すぐさま刀を抜き、六野太を馬の上で二刀、馬から落ちたところで一刀、三刀まで突かれた。二刀は鎧の上で通らず、一刀は内兜へ突き入れられたけれども、薄手なので死ななかったのを取り押さえて、首を掻こうとなさっているところに、六野太の郎党がかけつけて、刀を抜き、薩摩守の右の腕を、肘のもとからふつと斬り落とす。

 今が最期と思われたのだろうか、「少しの間、退いておれ。十念(南無阿弥陀仏と十遍唱えること)を唱える」と言って、六野太をつかんで弓の長さ(七尺五寸。約2.2m)ほど投げ捨てられた。その後、西に向かい、声高に十念を唱え、「光明遍照十方世界、念仏衆生攝取不捨(観無量寿経にある句。仏の光明はあまねく十方世界を照らし、念仏を唱える衆生を救い取ってお捨てにならないという意味)」と言い終わられるやいなや、六野太が後ろから寄って薩摩守の首を討った。

 身分のよい大将軍を討ったと思ったけれども、名を誰とも知らなかったので、箙(えびら)に結びつけられたふみを解いてみると、「旅宿の花」という題で一首の歌を詠まれている。

(ゆき)くれて木(こ)の下かげをやどとせば花やこよいひのあるじならまし

(訳)旅の道中、日が暮れて、桜の木の下を今夜の宿とするならば、桜の花が主人としてもてなしてくれるだろう。

 「忠度」と書かれていたので初めて薩摩守とわかったのである。六野太は、薩摩守の首を太刀の先に貫き、高く差し上げ、大声を上げて、「日頃名高い平家の御方である薩摩守殿を、岡部六野太忠純が討ちたてまつったぞ」と名乗ったので、敵も味方もこれを聞いて、「ああ、お気の毒だ。武芸にも歌道にも達者でいらっしゃった人を。惜しむべき大将軍を」と言って、涙を流し袖を濡らさぬ人はなかった。

 熊野育ちの平家の武人の命がここに散りました。

 源平合戦のさなかに撰集が進められていた勅撰和歌集『千載集』には、忠度の歌が1首採られています。

さざ浪や 志賀の都は あれにしを 昔ながらの 山ざくらかな

(訳)さざなみの寄せる志賀の都は荒れ果ててしまったが、長等山の桜だけは昔と同じように咲いていることだ。

「さざなみ」は「志賀」の枕詞。
「ながら」は地名の「長等」に「昔ながら」を懸けたもの。

 都落ちの最中、忠度は俊成の屋敷へ赴き自作の歌100首ほどを書きつけた巻物を俊成に託して、1首なりとも勅撰集に採用してほしいと願って立ち去り、その後、一の谷合戦にて壮絶な戦死を遂げました。
 俊成は忠度の願いを叶え、託された歌のなかから1首を『千載集』に採用しましたが、朝敵となった忠度の名を憚り、詠み人知らずとして掲載しました。

 

 『源平盛衰記』巻第二十三「朝敵追討例附駅路鈴の事」には、

薩摩守忠度は入道(※清盛※)の舎弟なり。熊野より生立ちて心猛けき者と聞こゆ。

 とあります。

 熊野の歌:平忠度

 平忠度ファンサイト「ただのり」

(てつ)

2008.12.25 UP
2009.1.6 更新
2011.8.26 更新

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 ◆ 参考文献

佐藤謙三校注『平家物語 (下巻) 』角川文庫ソフィア
梶原正昭・山下宏明 校注 新日本古典文学大系『平家物語 (下)』岩波書店
加藤隆久 編 『熊野三山信仰事典』戎光祥出版
水上勉『平家物語』学研M文庫
別冊太陽『熊野―異界への旅』平凡社
高野澄『すらすら読める「平家物語」』.PHP文庫
高野澄『熊野三山・七つの謎―日本人の死生観の源流を探る』祥伝社ノン・ポシェット
乾克己・小池正胤・志村有弘・高橋貢・鳥越文蔵 編『日本伝奇伝説大事典』角川書店

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■平家物語
1 平清盛の熊野詣
2 藤原成親の配流
3 成経・康頼・俊寛の配流
4 平重盛の熊野詣
5 以仁王の挙兵
6 文覚上人の荒行
7 平清盛出生の秘密
8 平忠度の最期
9 平維盛の熊野詣
10 平維盛の入水
11 湛増、壇ノ浦へ
12 土佐房、斬られる
13 平六代の熊野詣
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