■ 熊野の説話

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◆ 亡者の熊野詣


 熊野那智には、死者の霊魂が詣でるといわれる寺があります。
 那智山系にある標高749mの妙法山。その山頂近くに建つ
妙法山 阿弥陀寺(みょうほうさんあみだじ)がそれです。
 妙法山阿弥陀寺は
弘法大師空海の開基と伝わる真言宗の古刹で、女人禁制の高野山の代わりに女性が多く参詣したので、女人高野と呼ばれました。熊野古道最大の難所、本宮へ向かう「大雲取越え・小雲取越え」の出発点でもあります。

 この寺に死者の霊魂が詣でるのだといいます。
 「亡者の熊野詣」といい、人が死ぬと、その魂は、枕飯3合炊く間に、枕元に供えられたシキミを1本持って、この寺を詣で、釣鐘をひとつ、つき、そして、持ってきたシキミを妙法山山頂に建つ奥ノ院・浄土堂に供え、それから大雲取越えの山路を歩いていくということです。

 阿弥陀寺の鐘は人陰もないのに、時折、かすかな音を立てるといわれ、また、死者が供えたシキミのために奥ノ院付近はシキミが生い茂るようになったと伝えられています。

 阿弥陀寺から本宮へと続く「大雲取越え・小雲取越え」の道は、「死出の山路」と呼ばれ、道行く人はときに、亡くなった肉親や知人の霊に出会うことがあるといわれます。

 阿弥陀寺奥ノ院の御詠歌は、

くまの路をもの憂き旅とおもふなよ 死出の山路でおもひ知らせん

 「死出の山路」と呼ばれた「大雲取越え・小雲取越え」のその道中には「亡者の出会い」と名付けられた場所さえあります。

 熊野那智大社や青岸渡寺が観光客で賑わっているときも、妙法山阿弥陀寺は訪れる人も少なく、静けさを保っています。

(てつ)

2002.10.31 UP

 ◆ 参考文献

神坂次郎『熊野まんだら街道』新潮文庫

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