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◆ 肉吸い


 肉吸いとは、人に触れればたちまちことごとくその肉を吸い取るという妖怪。

 以下南方熊楠「紀州俗伝」より(口語訳てつ)。

紀州田辺町に住む前田安右衛門、今年67歳、以前久しく十津川辺りで郵便脚夫を勤めた。この人が話したことに、むかし東牟婁郡焼尾の源蔵という高名の狩人が果無山を行くと狼がその袖を咬み引き留める。そのとき18,9の美しい娘がホーホー笑いながら近づき、「源蔵、火を貸せ」と言う。妖怪に決まっていると思い、やむを得なければ南無阿弥陀仏の弾丸で撃とうと思っているうち、何事もなく去る。それから狼がまた袖を咬み行こうと勧める様子なので源蔵は安心して歩みだした。その後、また2丈程の背の高い怪物の遇い、南無阿弥陀仏と彫りつけた弾で撃つと、大きな音がして倒れたので行って見れば白骨だけが残っていたと。

また25年前、前田氏が北山の葛川郵便局に勤めていたとき、ある脚夫が木本の付近の寺垣内から笠捨という峠まで4里のウネ(東山の背)を夜行して来ると、後ろより18,9の若い美女がホーホー笑いながら来て近づく。脚夫は提灯と火縄を持っていた。その火縄を振って打ち付けると女は後ろへ引き返した。脚夫は葛川の局へ来て、恐ろしいのでこの職をしばらく止めようと言うので、給料を増し六角(6発の訛称、拳銃のこと)を携帯させて、前のとおり、かの山を夜行したが一向に異事はなかったとのこと。

これは肉吸いという妖怪で人に触れればたちまちことごとくその肉を吸い取るとのこと。

 若い美女の姿で現われて男の体に触れてその肉を吸い取るという…
 恐ろしい妖怪です…

紀州俗伝 15-3 肉吸いという鬼(口語訳):南方熊楠の随筆

熊野の妖怪:熊野の説話

(てつ)

2013.8.1 UP

 ◆ 参考サイト

南方熊楠『南方随筆』沖積舎

 

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