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盆踊りと一遍上人と熊野

熊野本宮盆踊り大会のために用意した原稿

2014年8月23日(土)に熊野本宮大社旧社地大斎原にて開催した熊野本宮盆踊り大会のために準備した原稿です。
盆踊り大会の休憩時間中に、10分ほど一遍上人や盆踊りについて話をさせていただきました。

熊野本宮盆踊り大会

こんばんは。
熊野本宮盆踊り大会実行委員会のメンバーをしています大竹哲夫と申します。

休憩しながら、焼きそばやたこ焼きを買いながら、食べながら聞いていただけたらと思います。
10分ほど、一遍上人や盆踊りについてお話しさせていただきます。

盆踊りというのは、鎌倉時代末期に起こった時宗という新仏教の一派が行った「踊念仏」、念仏を唱えながら踊る「踊念仏」が原型だといわれています。

時宗の開祖は一遍上人。
そこにある南無阿弥陀仏と刻まれた石碑は一遍上人神勅名号碑といいますが、その一遍上人です。一遍上人は熊野本宮に籠って、夢の中で熊野権現から「信不信をえらばず、浄不浄を嫌わず」という教えを授かって、それがきっかけとなり、時宗という新しい仏教の一派が起こりました。

一遍上人自身が「我が法門は熊野権現夢想の口伝なり」と述べていまして、私の教えは熊野の神様が夢のなかで伝えてくれた教えである、と言っています。

時宗では、このときの熊野本宮での一遍上人の体験を「熊野成道」と呼んでいます。成道とは、成る道と書きますが、成道とは悟りを開いたということ。時宗では、この熊野成道から時宗は始まったのだとしています。

ですので、熊野本宮がなければ、一遍上人の時宗はないし、時宗が行った踊念仏もなく、そして踊念仏から生まれた盆踊りもなかったということになります。

盆踊りは日本の文化を代表するような民俗芸能ですが、その精神的、宗教的なルーツ、根源の地が熊野本宮だということです。このことはこれまであまりアピールされていないと思いますので、このことを知ってもらうためにも、盆踊り大会を熊野本宮の旧社地で行いたいと思いました。

そして、今日8月23日という日は一遍上人の命日です。正応2年(1289年)8月23日、今から725年前の8月23日に一遍上人は亡くなりました。

一遍上人の命日に、一遍上人が教えを授かった熊野本宮の旧社地で、一遍上人の時宗が始めた踊念仏から生まれた盆踊りを踊るということは本当に意義のあることです。しかも今年は世界遺産登録十周年という特別な年です。お天気にもどうにか恵まれて無事開催することができて、本当によかったとほっとしております。

そこにある一遍上人神勅名号碑ですが、これがここに立っているというだけですごいことなんです。明治初期に神仏分離が行われて以降、神社の境内地に南無阿弥陀仏の碑が立っているというのは、ものすごいことです。

本宮大社ではこの名号碑の前で、一遍上人の月命日の毎月23日に、一遍上人月例祭を執り行なっています。今日も午前9時に行われましたが、神社がお坊さんを偲ぶ祭事をしているのです。これもすごいことです。

なぜ本宮大社はお坊さんを偲ぶお祭りをするのかというと、それは鎌倉時代末期から室町時代にかけて、熊野信仰を全国に広めてくれたのは時宗だからです。

時宗は全国的に大流行し、日本の文化に大きな影響を与え、そのおかげで熊野信仰も全国的に広まりました。

蟻の熊野詣といわれるほど大勢の人たちを熊野に呼んでくれたのは一遍上人の時宗です。

だから神社なのにお坊さんのお祭りをする。

熊野は神仏習合の霊場であり、神様と仏様を一体にしてお祭りするのが熊野信仰でした。熊野では異なる宗教を共存させてきました。

熊野本宮盆踊り大会

そして、盆踊りもまた、元々は死者を供養する仏教行事ですが、その仏教行事を神社の境内地で行うことは珍しいことではありません。
盆踊りも神仏習合の精神を引き継ぐものであり、日本が誇るべき文化です。

明治時代、日本が近代化を進めていく上で、盆踊りは世界に恥をさらす風習だとして禁止されました。しかし今は逆に世界に盆踊りをアピールしていくときが来たのではないかと思います。

世界各地の紛争、イスラエルのガザ侵攻などを見ると、やはり宗教の対立が大きな問題となっています。
そういう状況を考えると、いま世界に必要とされるのは宗教の共生ということだと感じます。

世界各地の紛争に対して私たち一個人ができることはほとんどなく、ほとんど無力ですが、それでも熊野では異なる宗教を共存させてきたんだということを発信して知ってもらうことは、ささやかながらも世界にとって意味のあることだと思います。

東京都ではオリンピックをにらんで、盆踊りを世界に発信する取り組みをするようですが、それに更に深みを加えて、盆踊りが宗教の共生から生まれた文化であることを発信することが熊野本宮だったら出来ます。

ここは世界遺産の神社の境内地です。神仏習合の霊場でした。この場所で盆踊りを踊る、もともと仏教行事であった盆踊りを踊るという、今行なっていることがそのまま世界に向けて宗教の共生を訴えることになります。

ここはかつては日本の宗教の中心地であり、日本にとって特別な場所ですが、世界にとっても特別な場所にすることができたらというのが、私の大きな夢です。

この後、総踊りとして紀州河内音頭や炭坑節や本宮音頭などの曲を流しますので、ぜひみなさま踊りの輪に加わって踊りを楽しんでください。

これで私の話は終わります。ご清聴ありがとうございました。

熊野本宮盆踊り大会

(てつ)

2014.8.23 UP
2021.8.27 更新

参考文献