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◆ 保坂和志『季節の記憶』中公文庫


レビュアー:てつ(2009.3.18 UP)

 とある人から「主人公がてつさんに似ているんですよ」と言われて借りて読んだ本です。

 読んでいてほのぼのと和んできます。
 鎌倉稲村ガ崎に暮らす父と息子のおだやかな日常を描く長編大河散歩小説です。
 主人公たちはよく散歩します。

 ストーリーはありません。事件の様なものは起こらず、日常がだらだらと綴られます。

 たしかに主人公は私と似ているかも、と思いました。
 私はあんな難しいことをおしゃべりしたりはしませんけれど。

 

 熊野は舞台として登場しませんが、蛯乃木さんという重要な登場人物の一人が白浜に住んでいて、ときどき主人公のもとに電話をかけてきます。

 蛯乃木さんの言葉。

「しゃべるときのシチュエーションしか頭にないんやな。あいつ、完全に言文一致しとんじゃ」(208頁)

「"てにをは" 使わんオッサンもおるぞ。
 主語なんか、だいたいみんなナシじゃ。
 ほとんど単語だけでしゃべっとるわ。
『終わった? ──おお、終わった』『アレは? ──まだじゃ』『ホウライは? ──もうええ』『島田さんは? ──寝とる』
 みんなこれじゃ」(208頁〜209頁)

「でも、こっちは無敵のオッちゃんがゴォロゴロおんねん。
 一人一人が大自然だぞ」(261頁)

 

 平林たい子賞、谷崎潤一郎賞受賞作。
 解説は養老孟司さん。

(てつ)

季節の記憶 (中公文庫)
季節の記憶 (中公文庫)保坂 和志

おすすめ平均
stars長編大河散歩小説
starsだべりの空気感を書いた不思議な本
stars圧倒的な表現力
stars買いです。
starsこういう小説があってもいいと思う。

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