■ 熊野の説話

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◆ 竜神山の羽衣伝説


竜神山

 田辺の市街地近くにある竜神山という山の頂部には竜神宮という神社があります。闘鶏神社とも深いつながりのある神社です。熊野権現秘事の巻:熊野の説話

  竜神宮の前には池があり、この池にはそこで水浴をしていた天女が羽衣を取られて天に帰れなくなるという羽衣伝説が伝わります。

 竜神山の麓に1人の樵が住んでいた。親も嫁もいない。
 樵が竜神山に木を伐りに行くと、いい匂いがする。その匂いのもとを辿ってみると、山頂部にある池の端の松の木に透き通った物がたなびいていた。樵はそれを手に取り、家に持ち帰った。

 夜になって、樵の家の戸を叩く者がいる。戸を開けると美しい女子であった。
 「池で水浴したとき羽衣を松の木に掛けて干していました。それを誰かが持ち帰ってしまった。その羽衣の香りがこの家からします。あの羽衣がなければ天に帰れないのです。返してください」

 樵は「嫁さんになってくれたら返す」という。天女は泣き泣き樵の嫁になった。
 樵は羽衣を葛籠の底にしまい込んで天女には見せることもしなかった。
 翌年、天女は女の子を生み、そのまた翌年は男の子を生んだ。

 ある晴れた日、樵は葛籠の中の物を出して虫干しを始めた。葛籠から出した物を干していくうちに透き通った羽衣も出てきた。

 天女はそれを手に取り、羽織ると、2人の子を両脇に抱えて空に舞い上がっていった。樵は1人残された。

 このような羽衣伝説は日本各地に伝えられていますが、熊野地方にもあったのですね。
 山の頂部にある池というのは、天女が水浴びするのにふさわしい場所だと思います。

(てつ)

2013.8.4 UP
2013.8.9 更新

 ◆ 参考文献

龍神山編集委員会『龍神山とその里山』

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