催馬楽(さいばら)は、上代の各地の民謡や戯れ歌などを雅楽風に編曲したもので、平安時代中期に流行しました。和琴(わごん)や笛などを伴奏にして笏拍子(しゃくびょうし)を打って歌いました。
呂歌(りょのうた)に「紀の国」と題された歌があり、それは白良浜(しららはま)を歌っています。
紀の国 拍子十六 二段 一段九 二段七
紀の国の 白良の浜に ま白良の浜に 降りゐる鴎(かもめ) はれ その珠持て来
風しも吹けば 餘波(なごり)しも立てれば 水底(みなぞこ)霧(き)りて はれ その珠見えず
本説 「かぜしもふいたればなごりしもたてれば」。また件の歌、もと四段なり。しかるを只だ二段を用ゐる。その歌、段の詞に云ふ。
紀の国の白良浜に降りているカモメよ。その珠を持ってこい。(人の言葉)
風も吹くから余波が立つので水底がくもって、その珠が見えない。(カモメの返事)
「その珠」は、海中にある珠。真珠。貝殻が磨かれて丸くなったものも指すらしい。
「本説」にあるように、この歌はもとは全四段でしたが、のちに後二段は廃絶しました。しかし、重種本神楽歌にその全体が見えるので、それによって廃絶した後二段も紹介しておきます。
風しもやみなば なごろしも居なば あさりて持てこ その鳩 その鳩島に
その鳩 その鳩島に 風しもやみなば この珠あさりもてかも
風が止んだら、余波が静まったら、採って持ってこい。その鳩島に。(人の言葉)
その鳩島に風が止んだら、この珠を採って持っていこう。(カモメの返事)
「鳩島」という島があるものとして訳しましたが、もしかしたら鳩に呼びかけているのかも。
(てつ)
2005.8.25 UP
◆ 参考文献
日本古典文学大系『古代歌謡集』岩波書店
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