■ 熊野の説話

 み熊野トップ>熊野の説話

◆ 早口な法華持経者


 『大日本国法華経験記』に納められ(中 第六十)、『今昔物語集』にも採られた(巻第十三、第二十八)、法華持経者のお話。熊野のことはちらっと出てくるだけですが。

蓮長持経者、誦法花得加護語

 今となっては昔のことだが、蓮長(れんちょう。伝未詳)という僧がいた。桜井の長延聖人(ちょうえんしょうにん。伝未詳)の昔の同行である。若くして法華経を受け習って、昼夜に読誦して怠けることはなかった。また、金峰山・熊野・長谷寺の諸々の霊験所に詣でつつ、各々の宝前で必ず法華経千部を誦した。

 また、かの持経者はきわめて早口で一月の内に必ず千部を誦する。若くから老年になるまで誦した経の数ははなはだ多くて、数え尽くすことはできない。
 傍にいる人が、持経者が早口で一月の内に千部を誦することを疑っていたところ、その人に夢に、「極めて気高く恐ろし気な人が四人いて、みな甲冑を着し、天衣をまとっている。各々、手には鉾.剣などを持っている。蓮長持経者の前後左右に仕えて一時も離れない」と見た。夢が覚めて後、長く疑いの心をとどめて、悔い悲しんで貴んだ。

 蓮長持経者は最期の時に臨んで、手に白い蓮華を持っていた。
 人がこれを怪んで質問して「今は蓮華の咲く時期ではない。どこに生じていた蓮華を取ってお持ちになっているのか」と言った。
 持経者は答えて「これを妙法蓮華というのである」と言って、たちまち消えてしまった。その後、持経者が手に持っていた蓮華が、誰が取ったとも見えないのにたちまちに消えてしまった。
 これを見聞きする人は「奇異なことである」と拝み貴んだ、と語り伝えるとか。

 熊野(および大峰)は、上皇による熊野御幸が行われる以前は、各地からの修行者たちが集まる山林修行の地として知られていました。熊野・大峰で霊験を感得した修行者の話は数多く残されています。

(てつ)

2005.8.2 UP

 ◆ 参考文献

日本古典文学大系『今昔物語集 三』岩波書店
佐藤謙三校注『今昔物語集 (本朝仏法部上巻)』角川ソフィア文庫

Loading...
Loading...
■法華経関連の話
髑髏の舌
安珍清姫の物語
大峰奥駈、順峯
法華経と大蛇
熊野道沿いの道祖神

amazonのおすすめ

 

 


み熊野トップ>熊野の説話