那智黒石
私(てつ@み熊野ねっと)は那智黒石でペンダントを作らせていただいております。
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那智黒石は歴史的には3つあるのですが、それらが混同されている現状があります。
3つの那智黒石
3つの那智黒石。
1つめが、中世の熊野詣の折に那智山に供えられた海浜の黒い玉砂利。産地は新宮から那智にかけての礫浜。和歌山県新宮市の佐野の浜など。
2つめが、近世に庭園の敷石に使われた海浜の黒い玉砂利。産地は熊野灘沿いの礫浜。和歌山県新宮市の佐野の浜なども含め、三重県の七里御浜など。
3つめが、近代に加工用石材として価値を持つようになった黒い特定の岩石。碁石の黒石や硯石などに加工されます。産地は三重県熊野市神川町のみ。
現在、那智黒石と呼ばれるものは3つめの加工用石材として用いられる黒い特定の岩石のことです。
紀伊続風土記での記述
江戸時代の紀州藩の地誌『紀伊続風土記』の佐野村の条には「那智黒石」についての記載があり、以下のように記されています(現代語訳てつ)。
○那智黒石
碁石で世に那智黒といって翫弄するものの多くは、この海辺から出るものである。また金銀の質を計るといってすりつけると、その品質を計ることができる。ゆえに試石(つくいし)ともいう(漢名 試金石)。浜にあるときは藍色であるが、翫摩するにしたがって黒漆のように肌密にして愛すべきものだ。
これが1つめ、2つめ、中近世の那智黒石の石としての特徴を表しています。熊野灘沿いの礫浜で採れる黒い玉砂利です。
1つめの、那智山へ黒い玉砂利を供えるという風習は近世には途絶えました。2つめの庭園の敷石として使われた那智黒石は現在は「御浜小石の黒那智石」という名前で呼ばれています。
また『紀伊続風土記』の物産第一の石部には、以下のようにも記されています。
○試金石 ナチグロ 物理小識
牟婁郡那智浜の名産である。近年は上品が少ない。
那智の浜は砂浜で、地質的に那智川からの黒い玉砂利の供給はあり得ませんので、実際の産地は佐野の浜や七里御浜で、那智の名が名高いので、那智産ということにしておけということだったのでしょうか。
3つめ、近現代の那智黒石については、『紀伊続風土記』の神上村の条には「神溪石(しんけいせき)」という名前で以下のように記されています(現代語訳てつ)。
○硯財神溪石
村の南4、5町、飛鳥神社のある溪にある。よって神溪石という。硯財の上品とする。質は堅密にして色は□黒である。土地の人は神上石(こうのうえいし)という。
神渓石は烏翠石(うすいせき)などとも呼ばれました。
これが現在の那智黒石で、三重県熊野市神川町でしか産出されない特殊な岩石です。碁石の黒石や硯の他に、床置石、装飾品などに加工されます。
また中近世の那智黒石と同様、近現代の那智黒石も金の品質を計るために用いられる試金石に使用されました。
熊野巡覧記での記述
泉州堺出身で中湊村(現・和歌山県串本町中湊)に移住した医師であり学者であった玉川玄龍が著した熊野案内記『熊野巡覧記』(寛政6年 1794年)には、那智黒石についての記述が2ヶ所あります(現代語訳てつ)。
秋津浦 佐野村の前にある浜である。那智黒という碁石はこの浜からも出るということだ(巻一)。
和歌山県新宮市の佐野の浜で那智黒石が産することが記されています。
もう1ヶ所。
棋石(※きせき。碁石のこと※) 那智黒と名づける。この浜に出る。光輝き、滑らかで美しく、漆のように黒く、製造によらずに自然と法度に叶っている。…
「この浜」がどの浜なのか、わかりにくいのですが、この文章の前には、浜の宮のことが書かれていて、その記述に「木本(※現・三重県熊野市木本町※)よりここまでを七里御浜という」とあり、その流れで「棋石」が記されているので、「この浜」は七里御浜のことかもしれません。また浜の宮の前の浜だとすると那智の浜のことになります。
地質学的には
地質学的な説明を、後誠介氏の「那智黒石についての誤った記述とその背景」(『熊野誌』第43号)から引用。
1つめ、2つめの中近世の那智黒石は、
黒い玉砂利としての那智黒石は、紀伊半島中央部の古生層・中生層から、熊野川などの河川によって熊野灘沿いの海浜に供給された粘板岩の円礫(玉砂利)であり、熊野灘沿いの海浜から産する(99頁より引用)
3つめの近現代の那智黒石は、
加工用石材としての那智黒石は、紀伊半島南東部に分布する熊野層群大沼累層中の黒色頁岩であり、熊野川上流の北山峡付近から産する(99頁より引用)
黒い玉砂利としての那智黒石、加工用石材としての那智黒石。地層的には違う層から産出します。
辞典や辞書などでは、黒い玉砂利としての那智黒石と加工用石材としての那智黒石を混同し、また那智地方が産地であるように記述されたものが多いのですが、正しい情報が拡散していくにつれ、今後、訂正が進んでいくものと思われます。
現在の那智黒石の製品
硯。
試金石。
この3点の写真は徳村屋さんで撮影させていただきました。ありがとうございます。
私(てつ@み熊野ねっと)が作っている那智黒石のアクセサリー
「み熊野ねっと」管理人てつがひとつひとつひとつひとつ手作りしている那智黒石のペンダントです。
ペンダントトップに使用する那智黒石の小石は1つ1つそれぞれ形や大きさが異なるため、一点一点表情が違う、世界にひとつしか無いアクセサリーになります。また丁寧な仕上げをされた石ではないので、小さな傷等があるものもございますが、それもひとつの表情と受け取っていただけたら幸いです。
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(てつ)
2013.9.17 UP
2019.10.5 更新
2019.12.17 更新
参考文献
- 後誠介「那智黒石についての誤った記述とその背景」(『熊野誌』第43号)