わずかに神社の森をasylum(アサイラム)として今日まで生を聊せしなり
ハガキにて申し上げしホルトノキ、ミズキ、クマノミズキ、オガタマノキ、カラスノサンショウの大木、一、二丈のもの、自生のタラヨウ一丈余のものなどは、何の用もなきものゆえ、わずかに神社の森を asylum として今日まで生を聊(りょう)せしなり。
ー 松村任三宛書簡、明治44年(1911年)8月29日付( 『南方二書』)『南方熊楠全集』7巻
南方熊楠は神社の森を asylum(アサイラム) だと言いました。
英語でアサイラム、ドイツ語やフランス語でアジール(独: Asyl、仏: asile)。
避難所。世俗の権力の及ばない領域、聖域、自由領域、無縁所。
「生を聊す」は漢語の「聊生」を読み下したもので、「聊」には頼る、よりどころとする、安心するの意みがあり、「聊生」で生活のよりどころとする、安心して生活するといった意味になります。
いよいよわが国の神社は、これ本来の公園に神聖慰民の具をそなえたる結構至極の設備と思い、外国人が毎々羨む通り、さしたる多額を費やさずに、村々大字小字に相応の公園あり、寺院あり、加うるに科学上の諸珍物を生存せるアサイラムとして保存されたきことなり。
ー 同上( 『南方二書』)『南方熊楠全集』7巻
人間の活動により生存を脅かされた生物は神社の森をアサイラムとして生存のよりどころとしてきたのだ。神社の森は生物のアサイラムとして保存しなければならない。熊楠はそう訴えました。
アサイラムの語源はギリシア語の ἄσυλον 。「侵すことのできない、神聖な場所」を意味する言葉です。
(てつ)
2024.5.7 UP
参考文献
- 『南方熊楠全集』7巻、平凡社
- 南方熊楠(著)、中沢新一(編)『南方熊楠コレクション 森の思想』河出文庫
- アジール - Wikipedia
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