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南方熊楠「ミコライザ…その作用にて腐土より滋養分を取り、大なる草木を養成するのが通例なり」

ミコライザ…その作用にて腐土より滋養分を取り、大なる草木を養成するのが通例なり

下ばえが腐化してフムス(腐敗土)を形成し、これにミコライザ(根菌)という微細の菌が生じ、その作用にて腐土より滋養分を取り、大なる草木を養成するのが通例なり。

ー 「神島の珍植物の滅亡を憂いて本社に寄せられたる南方先生の書」『牟婁新報』明治44年(1911年)8月6日付

 南方熊楠は森におけるフムス(humus)の重要性、をとくに訴えていました。

 フムスを熊楠は腐敗土とか腐土、腐葉土と訳していますが、今は腐植土と訳されます。動物の遺骸や植物の落ち葉などが腐ってできた土です。腐植土には菌根菌(mycorrhizal fungi)が菌糸を張り巡らせています。

 菌根菌は植物の根と共生して植物にリン酸や窒素を供給する菌類です。菌根菌は植物の根に侵入して定着し、共生してミコライザ(熊楠は根菌と訳していますが、今は菌根と訳されます)を形成し、植物にリン酸や窒素を送り、植物からは光合成産物を分けてもらいます。

 森の中の地面に生えるキノコの多くは菌根菌です。腐植土がなくなると、菌根菌が死滅してしまい、植物は養分を吸収できなくなって枯れていきます。菌根菌という小さな生き物が草木の命を支えているのです。

 豊かな森には、土の中に極めて多様で豊かな菌根菌の菌糸のネットワークがあります。土壌中に多様な微生物の世界があります。土壌中の生物多様性が、地上の生物多様性をもたらします。

 多様な生き物が複雑に関係を持ちながら成り立っている森を土ごと丸ごとを守ろうとしたのが熊楠の自然保護運動でした。

(てつ)

2024.5.5 UP

参考文献