2018年に発見された熊野に自生する野生の桜
クマノザクラは野生種の桜としては103年ぶりに発見された新種で、紀伊半島南部、熊野地方の熊野川流域や古座川流域に自生します。
熊野地方で自生する桜はこれまでヤマザクラとカスミザクラの2種類と考えられてきましたが、熊野ではヤマザクラが2度咲くということが以前から言われていました。そのうちの早く咲くほうの桜が2018年にヤマザクラとは区別される新種の桜だということが認められて、クマノザクラという和名が付けられました。
クマノザクラの学名はCerasus Kumanoensis(セラサス・クマノエンシス)。意味は熊野の桜です。英名ではKumano cherry(クマノチェリー)と付けられました。
熊野ではヤマザクラは2度咲くといわれ、3月に咲くヤマザクラがあることは熊野に暮らす人なら誰もが知っていることでしたが、それが新種と認められました。身近な所にもまだ発見されていないものがあるのだということに驚きました。
クマノザクラの特徴
特徴としては花の咲く時期が早いことと、ヤマザクラ、カスミザクラに比べてピンク色が濃いことが挙げられます。クマノザクラが3月上旬から中旬にかけて咲き始めて、ヤマザクラは4月中旬に、カスミザクラは4月下旬に咲き始めます。
自生する桜では1番先に咲く桜で、3つの桜は花が咲いている時期が重なりません。ですので3月上旬中旬から4月上旬にかけて熊野地方で山に桜が咲いていたらクマノザクラだということになります。
ヤマザクラとの違いは他に、花序柄(かじょへい)と呼ばれる花を支える茎の部分が短いことや、葉っぱが小さいことが挙げられます。またヤマザクラは花と葉が同時に開くのに対して、クマノザクラは葉が開くより先に花が開きます。樹高が低いことも特徴で、ヤマザクラが30mほどにもなるのに対して、クマノザクラは15mほどです。
また熊野地方でもよく植栽されている栽培品種のソメイヨシノはクマノザクラが開花した後に開花し、開花時期が一部で重なります。ソメイヨシノとクマノザクラの違いは、花序あたりの花数がソメイヨシノが3〜4個に対してクマノザクラは1~3個と少ないこと。見比べるとソメイヨシノは花がワサワサしている感じに見えます。また花序柄がソメイヨシノはほとんど見えないのに対してクマノザクラは見えるなどの違いもあります。樹高は同じくらいですが、樹形は異なり、ソメイヨシノが横に大きく広がる傘状になるのに対してクマノザクラは箒を逆さにしたような形になります。
クマノザクラについて心配なこと
クマノザクラについて心配なのは他の品種の桜との交雑です。
やはり熊野地方でも栽培品種の桜が植えられていて、それらの中にはクマノザクラと花の咲く時期が重なるものもあって、交雑が生じて将来的にクマノザクラが減少する可能性があります。
クマノザクラを守るためには交雑の可能性のある桜を植えないということが必要です。
(文・てつ、写真・てつ&そま)
(写真は三重県熊野市紀和町や和歌山県田辺市本宮町で撮影)
2021.3.27 UP
2023.4.20 更新
2024.3.27 更新
参考文献
- 勝木俊雄 『桜の科学 日本の「サクラ」は10種だけ? 新しい事実、知られざる由来とは』 サイエンス・アイ新書
クマノザクラの発見者・勝木俊雄氏のご著書。
和歌山県古座川町池野山のクマノザクラ群生地へ
アクセス:JR古座駅から車で約8分
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