線路脇にある社殿のない神社
JR串本駅から大阪方面におよそ300mくらいでしょうか、紀勢本線の線路沿いに、この矢倉神社があります。
楠やタブなどが茂る小さな森の前に石造りの鳥居があります。
社殿のない神社です。森の中は白い浜石が敷き詰められ、奥の方に井戸のような石組みがあります。
背後には線路を隔てて山が迫り、かつては背後の山を含めての神社であったのだと思われます。
串本町役場にほど近いこのような場所に、このような古式のあり方を伝える神社が残されているのか、と感動しました。 境内にはオオタニワタリが生育。
以下、民俗学者の野本寛一氏の著書より引用。
——昔、神様が1本の矢となって天から下られた。矢の落ちた所が井戸となってそこから清らかな水が湧き出した。人びとは、この井戸を御神体としてこの森を矢倉様と呼ぶようになった。(中略)戦前までは、森の入口にある三段の石段の手前で履物を脱ぎ、素足で参入する習慣が守られていたという。
(野本寛一『生態と民俗 人と動植物の相渉譜 』講談社学術文庫)
かつては漁師の家の老婆達が毎朝、桶に潮水を汲んできてその潮水を拝所に注ぎ、豊漁と船の安全を祈って、帰りに井戸の水をいただいて帰ったものだという。毎年旧暦の六月一日が祭りで、その日には井戸がえをするのがならわしであった。
(野本寛一『熊野山海民俗考』人文書院)
私が井戸のような石組みだと思ったものは、やはり本当に井戸だったのですね。
(てつ)
2012.8.5 UP
2012.8.12 更新
2014.12.15 更新
2020.3.28 更新
参考文献
- 野本寛一『生態と民俗 人と動植物の相渉譜 』講談社学術文庫 引用箇所は75~76頁
- 野本寛一『熊野山海民俗考』人文書院 引用箇所は252頁
- 矢野熊の矢倉神社 - きのくに風景讃歌
矢野熊の矢倉神社へ
アクセス:JR串本駅から徒歩約10分
駐車場:駐車スペースあり