熊野地方の郷土料理、めはり寿司
めはり寿司は、熊野地方の郷土料理です。高菜の浅漬けの葉でご飯を包んだおにぎりのようなもので、もともと山仕事などのお弁当として作られていました。寿司とはいいますが、酢飯ではありません。とてもシンプルな料理です。
新宮出身の文豪、佐藤春夫はめはり寿司について昭和36年発表の随筆「望郷の賦」に次のように書いています。
これはもと山中の人々のお手軽な弁当なのではあるまいか、鮨と名乗るのもおこがましいやうなシロ物で、塩漬のたか菜を刻み込んだ握り飯をその上からすっぽり塩漬のたか菜でくるんだだけのものもので、つまりは漬け菜と飯を一しょに食べる工夫で、その握り飯がたか菜の広葉一ぱいに包めるだけに目を見張るばかりに大きいのを、いつ誰が名づけたものか、目を見張るを略して眼張り鮨とは、これ亦、この地方の人々のざれ言の一種で、菜つ葉を魚と見立てて鮨とは人をバカにしたやうな名であるが、それがまた野趣があってなかなか馬鹿にならない味である。
亡友紀潮雀(きのじゃくちょう)こと下村悦夫は山樵(やまがつ)の家に育った秀才であつたせゐか、この目張りずしが大の好物であったと見え、在京中、同郷人の顔を見ると、いつも口ぐせのやうに目張りずしを食ひたいと云ひつづけてゐたものであった。(『定本 佐藤春夫全集 第15巻(創作13)』臨川書店))
大切な熊野地方の郷土料理です。
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(てつ)
2008.12.7 UP
2008.12.24 更新
2020.3.4 更新
参考文献
- 『定本 佐藤春夫全集 第15巻(創作13)』臨川書店)
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