正徹の熊野関連の歌
正徹(しょうてつ。1381~1459)は室町時代中期の歌人。備中国小山田庄、小松康清の子。幼名は尊命(尊命丸とも)。長じて正清(信清とも)。後に出家し東福寺に入り、正徹と称しました。当時の流派には組みせず、藤原定家を尊崇して、独自の歌境を開いていきました。家集に、1万2000余首を収めた『草根集』があり、歌論に『正徹物語』があります。
『草根集』で私が見つけた熊野関連の歌は以下の6首ですが、ほんとうはもっとあるのかもしれません。ご教示いただけたらありがたいです。
『草根集』より6首
1. 春 319
霞隔山
朝かすみもも重(へ)もかくるうら風に浜ゆふたかき三くまのの山
(訳)朝霞が幾重にもかかる浦に風が吹き、浜木綿の向こうに高いみ熊野の山が見えた。
2. 冬 6037
雪埋苔径
熊野川山の苔路(こけぢ)はうづもれて雪にさをさすせせの杉ふね
(訳)熊野川や山の苔道は雪に埋もれて、あちこちの川瀬で杉舟が雪に棹をさしているよ。
3. 恋 7887
寄苔恋
我が心乱れし果(はて)や みくまのの苔地くるしき露を分くらん
(訳)わが心は乱れ果て、み熊野の苔の生えた苦しい道を露をかき分けて歩いている。
4.雑 8607
出湯
くま野路や雪のうちにもわきかへる湯の峰かすむ冬の山風
(訳)熊野路の雪のうちにも沸きかえる湯の峰の湯だが、冬の山風に湯の峰が霞んでいることだ。
5.雑 9600
幽径苔
雲のみぞとふとも余所(よそ)にみくまのの峰の苔路をはらふ嵐に
(訳)たとえ雲だけが訪ねるとしても他所に?み熊野の峰の苔の生えた道を払う嵐に。
6.雑 10610
寄社祝
御熊野や浜ゆふならぬ しめ縄もいくへにかけて君を祈らん
(訳)み熊野の浜木綿でなないが、注連縄を幾重にもかけてあなたのことを祈ろう。
(てつ)
2005.9.22 UP
2020.5.16 更新
参考文献
- 伊藤伸江/伊藤敬 共著『草根集・権大僧都心敬集・再昌 (和歌文学大系66)』明治書院
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