海に住む妖怪ショウジョウがくれた釣り道具
和歌山県田辺市の天神崎に「ショウジョウの釣り場」と呼ばれる所があるそうです。
昔、田辺に笛の上手な若者がいた。親も妻もない独り者である。
ある日、その若者が元町の立戸の浜で笛を吹いていると、美しい娘が現れて、笛の音に聞き惚れた。
若者は娘には気づかずに何曲かを吹き、吹き終わると、娘は声をかけて「私のためにもう一曲聞かせてください」と頼んだ。
娘は「私は海に住むショウジョウの娘です。あなたの笛を聞きたくて、人間の女に姿を変えて参りました」と言う。若者は娘のために笛を吹いた。
娘は喜び、「お礼に釣り道具を差し上げます。餌はなくとも魚を釣ることができます」と、長い髪の毛を1本抜いて、それに釣り針を付けて、若者に手渡すと姿を消した。
若者は不思議に思いながらも、それで魚を釣ると、餌を付けないのに思うように魚が釣れた。若者が釣りをした場所は天神崎にあり、今も「ショウジョウの釣り場」と呼ばれている。
若者はのちに白浜町の堅田浦へ移り住み、釣り道具を堅田浦の八幡神社に寄進したという。ショウジョウが崎という所が堅田浦にある。
(てつ)
2009.8.13 UP
参考文献
- くまの文庫3『熊野中辺路 伝説(下)』中辺路刊行会