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南方熊楠「小生は慶応三年四月十五日和歌山市に生まれ候」

小生は慶応三年四月十五日和歌山市に生まれ候

熊野本宮大社
熊野本宮大社

小生は慶応三年四月十五日和歌山市に生まれ候。

ー 「履歴書(矢吹義夫宛書簡、大正14年(1925年)1月31日付)」『南方熊楠全集』7巻

 南方熊楠の誕生日は慶応3年4月15日(1867年5月18日)。明治に元号が変わる前年、熊楠は紀州和歌山城下に生まれました。

 旧暦4月15日

 旧暦の誕生日の4月15日は熊野三山のひとつ・熊野本宮の大祭「御田祭」が斎行された日です。熊楠の名の意味するところは「熊野の楠」ですが、つくづくと熊野に縁のある人物だと思います。

 江戸時代期に編纂された紀伊国の地誌『紀伊続風土記(きいしょくふどき)』には御田祭について以下のように記されています(私による現代語訳)。

年中行事が多いなかで4月13日・同15日を大祭とする。(中略)

15日、朝、神人廻船管弦楽人神人等が集まり、神幸所へ向かい御供神酒を献じて神楽を奏して神輿還御。本官始め社役人が出仕。途中まで迎え、来て東御門から舞台前にて神輿を据え、八撥行事・猿楽・翁舞がある。それから西御門通渡り神人廻船十二宮末社まで八撥神事。その他社家社役人も同じく13日のように真名井社まで行き行列し、八撥を同じく。その後、5番組の能がある。深夜に事を終える。

本宮 年中行事:『紀伊続風土記』(現代語訳)

 御田祭は現在では少し形が変わったところもありますが、新暦4月15日に斎行され、「渡御祭」と呼ばれます。この日、熊野本宮大社では本殿祭、渡御祭、還御祭が斎行されます。

新暦5月18日

 熊楠の誕生日は新暦では5月18日。5月18日は現在奇しくも「国際博物館の日」であり、「国際植物の日―世界のみんなで植物のたいせつさを考える日―」でもあります。

 「国際博物館の日」は1977年に制定され、「国際植物の日―世界のみんなで植物のたいせつさを考える日―」は2012年に制定されました。

 どちらも熊楠の誕生日にふさわしい記念日です。もちろん偶然なのでしょうが、なんという素敵な偶然かと驚かされます。しかもそれらが日本国内の記念日ではなく国際的な記念日だというのも熊楠らしいことです。

 また、熊野地方を「世界に開かれた質の高い持続可能な観光地」にすることを目指して活動している田辺市熊野ツーリズムビューローさんが一般社団法人になったのが2010年の5月18日です。

 田辺市熊野ツーリズムビューローさんは2006年に任意団体として設立され、その後2010年5月18日に法人格を取得して一般社団法人になりました。その取り組みは成果を上げつつあり、世界的旅行ガイドブック「Lonely Planet(ロンリープラネット)」の「BEST IN TRAVEL 2018」では紀伊半島が「訪れるべき世界の10地域」で第5位に選ばれ、世界的宿泊予約サイトAirbnbでは「2019年に訪れるべき19の地域」で和歌山県が日本で唯一選ばれ、国内最大級の外国人向け情報サイト「GaijinPot(ガイジンポット)」では「2020年外国人が訪れるべき日本の観光地ランキング」で熊野が1位に選ばれました。

 現在では熊野古道を歩く旅行者は日本人より外国人のほうがはるかに多いように見受けられます。田辺市や熊野に多くの外国人旅行者が訪れるようになったのは田辺市熊野ツーリズムビューローさんのおかげです。

 熊野地方を「世界に開かれた質の高い持続可能な観光地」にすることは熊楠が100年ほど前に夢見たことでした。

田辺でも、「働いて儲けよ」と教えているが、ここらで働いてナニが儲かるか朝から晩まで働いてもナニほどの儲けもない。まず働いて儲かっているのは監獄位のものだ。商売は同商売が多く工業も盛んでなく、今の所格別これぞという儲け口もあるまい。

ただこの「風景」ばかりは田辺が第一だ。田辺人たるものはこの風景を利用して土地の繁栄を計る工夫をするがよい。今こそかように寂しいが追々交通が便利になってみよ、必ずこの風景と空気が第一等の金儲けの種になるのだ。

ー 「菌類学より見たる田辺及台場公園保存論 (七)」『牟婁新報』大正5年(1916年)7月14日付

 熊楠が夢見たのは、地域にある自然や文化的な資産を保全しながら観光資源として活用して地域経済を潤す、持続可能な観光地づくりでした。

 熊楠の143回目の誕生日に田辺市熊野ツーリズムビューローさんは一般社団法人になりました。熊野の大恩人である熊楠に敬意を払ってのことか、それとも偶然なのか、わかりませんが、偶然だとしたら、これもまたなんという素敵な偶然かと驚かされます。

(てつ)

2024.5.27 UP

参考文献