第4回熊野本宮盆踊り大会のために用意した原稿
2017年8月13日(日)に開催した第4回熊野本宮盆踊り大会のために準備した原稿です。熊野本宮大社旧社地大斎原にて開催。
盆踊り大会の休憩時間中に、10分ほど一遍上人や盆踊りについて話をさせていただきました。
神事から始まります。
祝詞奏上、玉串奉奠。
こんばんは。
熊野本宮盆踊り大会実行委員会のメンバーの大竹哲夫と申します。
本日はご参加ありがとうございます。お陰さまで第4回を迎えることができました。
これから10分ほど、なぜここで、この熊野本宮大社旧社地で盆踊り大会を開催するのかについてお話しさせていただきます。休憩しながら、かき氷、お茶等の販売もしておりますので、どうぞご自由に移動しながら、お気軽に聞いていただけたらと思います。
なぜここで盆踊り大会を行うのか。それはここがある意味で盆踊りの発祥の地だからです。
そもそも盆踊りというのは、鎌倉時代中頃に起こった時宗という新しい仏教の一派が行った「踊念仏」、南無阿弥陀仏と念仏を唱えながら踊る「踊念仏」が原型だといわれています。
一遍上人神勅名号碑に玉串奉奠
時宗の開祖は一遍上人。
そこにある石碑には一遍上人が書いた南無阿弥陀仏の文字が刻まれています。一遍上人は熊野本宮に籠って、本宮の神様から教えを授かって、それがきっかけとなって時宗という新しい仏教の一派が起こりました。その後、時宗は全国的に大流行し、日本の文化に大きな影響を与えました。鎌倉時代末期から室町時代にかけての熊野信仰が全国的に広がったのも時宗のおかげですし、盆踊りが生まれたのも時宗の影響です。
時宗では、一遍上人が熊野本宮で神様から教えを授かった、そのときから時宗は始まったのだとしています。
ですので、熊野本宮がなければ、一遍上人の時宗はないし、時宗が行った踊念仏もなく、そして踊念仏から生まれた盆踊りもなかったということになります。
神奈川県藤沢市に時宗の総本山の遊行寺というお寺がありまして、そこが盆踊りの発祥の地だといわれています。その遊行寺よりもさらに深いレベルで、時宗の始まりという意味で、この熊野本宮は盆踊り発祥の地なのだということができます。盆踊りの発祥の地がここだから、ここで盆踊り大会を行うのです。
熊野本宮伝統芸能教室による「安珍清姫くどき」
そして、さらにここは世界遺産です。世界遺産の神社の境内地で盆踊りを踊るということには大きな意義があります。
世界遺産とは世界的に見て価値のあるものを人類共通の財産として守り、そして未来に伝えるというものです。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)という国連の専門機関が行っている活動のひとつです。
ユネスコの目的は、教育、科学、文化を通じて世界の平和と安全に貢献すること。そして、そのユネスコの活動である世界遺産も、その意義はもちろん世界の平和と安全への貢献にあります。
ユネスコ憲章、ユネスコの基本方針を定めた文書の前文には「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」という1文があります。
ここは単なる神社ではなくて、世界遺産の神社です。世界遺産の神社の境内地でもともと仏教行事である盆踊りを踊るということは、世界に向けて宗教の共生を訴えることになります。
宗教の対立が世界の平和を安全を損ねている状況が続くなかで、いま私たちがしていることは、世界にしてみたら本当に小さな小さなことですが、人の心の中に平和のとりでを築く行動となります。
紀州きのくに盆踊り愛好会による「ヤタチャン音頭」
熊野は神仏習合の霊場であり、神様と仏様を一体にしてお祭りするのが熊野信仰でした。本宮の主祭神ケツミコノ大神様は阿弥陀如来と一体で、そのご社殿は證誠殿と呼ばれました。證誠殿とは、誠を証明する社殿。念仏を唱えれば極楽往生できることが誠であることを証明する社殿という意味です。本宮は神社ですが、そこにお参りすれば極楽往生が確実になるとされた特別な場所でした。
このような神様と仏様を一体にお祀りする熊野信仰の形は明治時代に神仏分離により破壊されました。来年は明治150年ですけれども、明治時代以降に行われたことで熊野はひどく傷つけられました。明治初期には神仏分離と修験道禁止がありました。明治末期には熊野地方を含む和歌山県と三重県の両県で、およそ90%の神社が潰されました。戦後間もなくには今の高台にある本宮大社でさえ水没する巨大ダム計画が立てられました。昭和の前半くらいまでは熊野本宮大社はダムの底に水没してしまってもかまわないくらいの扱いをされていました。
熊野本宮踊り保存会による熊野本宮踊り(ハイヤーハァ踊り) 田辺市指定無形民俗文化財
しかしながら今は、かつての熊野信仰のあり方が世界に必要なものとされるようになってきました。熊野が異なる宗教を共生させてきた霊場であったことをアピールすることは、世界遺産にふさわしい、ユネスコの基本方針である世界の平和と安全への貢献に合致する取り組みです。
この後、小芝陽子さんが素晴らしい歌を披露してくださいます。その後は総踊りです。総踊りが始まりましたら、ぜひみなさま、踊りの輪に加わって踊りを楽しんでください。とくに観光でお越しのお客様、ぜひご参加ください。世界遺産であり、またある意味盆踊り発祥の地ともいえる熊野本宮大社旧社地で盆踊りを踊れる、またとない機会です。
これで私の話は終わります。ありがとうございました。
途中、和歌山県串本町出身の演歌歌手、小芝陽子さんの歌謡ショーも
総踊り ヤタチャン音頭(小芝陽子さんの生歌)や、紀州河内音頭、炭坑節など
(てつ)
2017.8.14 UP
2021.5.11 更新