死してなお経を読む髑髏の舌
『日本霊異記』下巻第一話より。
孝謙天皇の世に永興禅師が紀伊国牟婁郡熊野村で海辺の人々を教え導いていた。禅師のところに一人の僧がやってくる。その僧はいつも法華経を読みとなえていた。1年ののち僧は禅師のもとを麻の縄20尋(ひろ・両の腕を左右に伸ばした長さ)と水入れだけを持って去る。
2年後のこと。熊野の村人が山へ入って木を伐って船を作っていたところ、どこからか法華経を読む声がする。何ヶ月が過ぎてもその声は止まなかった。船を作る人は声の主を探したが、見つけられない。のち半年が過ぎて、船を引き出すためにふたたび山に入ったが、やはりそのときも経を読む声は聞こえてきた。
このことを村人から聞いた禅師。不思議に思って探しに行くと、一人の死人の骨を見つけた。麻の縄で両足を縛って、岩に身を投げて死んでいた。骨のそばに水入れがあったので、くだんの僧だとわかった。禅師は嘆き悲しんでそのまま立ち去った。
その3年後、なお経を読む声が止まないというので、禅師がその骨を取ろうとして、しゃれこうべを見ると、舌は腐っておらず、生きて、経を読み続けていた。
詳しくはこちら。
(てつ)
2005.7.8 UP
2022.7.18 更新
参考文献
- 原田敏明・高橋貢訳『日本霊異記』 平凡社 東洋文庫 97
- 中田祝夫『日本霊異記(下)全訳注』 講談社学術文庫
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