河童
熊野では河童のことをゴランボ、ガランボウ、ガロボシ、ガロ、ガロウボウシ、ゴウライなどと呼びます。人や牛馬を川のなかに引き込んで溺死させたりするので恐れられました。地域によりその姿や性質はさまざま。
姿
猿のよう。一本足の怪物。人間の子供のよう。人魚。蛇。頭に皿がある。頭は坊主、皿がない。
変身能力がある。人間に化けたり、魚に化けたり、かんざしに化けたり(女の人が川の中に拾いに来るのを待つ)。
好きな物、嫌いな物
キュウリが好物。キュウリを食ったら川へ行くなと言われる。キュウリの匂いで河童を引き寄せてしまい、尻を抜かれてしまう。キュウリを嫌うと言う地域も。
人の尻が好き。
煤が嫌い。
変態?
冬は山へ行きガシャンボになり、春には川へ降りてゴランボになると言う。
和歌山県上富田町岩田のゴウライボーシ
淵のそばに馬をつないで草を食べさせていたところ、ゴウライボーシが馬を引き込もうとして、馬をつないだ綱を外して水際まで引き寄せた。ところが馬が急に駆け出して家まで帰っていったので、ゴウライボーシは綱を放す余裕もなく、家まで連れてこられた。
馬が騒ぐので家の者が出てみると、綱の先に1厘銭が食いついている。家の者はゴウライボーシにちがいないと、青松の葉を燃やして燻した。たまらずゴウライボーシは正体を現し「命だけは助けてくれ」と懇願する。そこで岩田と生馬の村境まで大勢で送り出して「この松の木が生えている間は、再び岩田の地は踏まない」と約束させて、川に放してやった。
和歌山県上富田町岡のゴウライボーシ
田中神社では例祭に人身御供の代わりとして握り飯を供えるので、ここから上流にはゴウライボーシは上ってこないと信じられていた。
和歌山県田辺市中辺路町近露のゴウライボーシ
川原に馬をつないでおいたところ、河童が馬を引き込もうとして、綱を自分の体に巻き付けた。ところが馬が急に駆け出して家まで帰っていったので、ゴウライボーシは綱を放す余裕もなく、家まで連れてこられた。
家の者は河童に気づき、捕まえたが、河童が「これから悪いことはしないから助けてくれ」と懇願する。そこで「松の木淵の松が天に届くまで、橋谷の枝垂松が地に届くまで、そして下宮の狛犬が腐るまで、再びこの地には出てこない」と約束させて、放してやった。
和歌山県田辺市中辺路町温川(ぬるみかわ)のガイラボーシ
温川にガイラボーシが住んでいて、頭にはきれいなかんざしを挿していた。里の娘しげのは、そのかんざしが見たくて毎晩のようにガイラボーシが出るという川縁へ出かけて行った。幾日目かの晩、しげのはとうとうかんざしを挿したガイラボーシに出会った。そのかんざしの美しさにしげのは心を奪われた。
そしてある晩のこと、しげのがいつものように川縁を歩いていると、ガイラボーシが川の中から頭を出し手招きする。しげのはそれに応えて川の中に入っていき、とうとう深みにはまって溺れ死んでしまった。それからこの淵を「しげの淵」と呼ぶようになった。
三重県熊野市飛鳥町の「くらもと」のガロボシ
(てつ)
2010.6.7 UP
参考文献
- くまの文庫3『熊野中辺路 伝説(下)』熊野中辺路刊行会
- みえ熊野学研究会編『熊野の文学と伝承』