那智
那智(今の和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山)には、那智大滝(なちおおたき)があり、熊野三山のひとつの熊野那智大社や西国三十三所霊場一番札所の青岸渡寺があります。
那智大滝は「日本の滝100選」のひとつ。「日本の音風景100選」にも選定されています。一般に「那智の滝」といわれ、「一の滝」ともいわれるこの滝は、 落差133mの日本一の直瀑です。熊野那智大社別宮の飛瀧(ひろう)神社の御神体。
『夫木抄』から1首
鎌倉後期の私撰和歌集『夫木抄』から花山院(968~1008)の歌を1首。花山院の代表歌。
石走る滝にまがいて那智の山 高嶺を見れば花の白雲
(四)
(訳)那智の山を見ると滝と桜の花が入り乱れていることだ。
『山家集』から1首
西行法師(1118~1190)の家集『山家集』から1首。
月照滝
雲消ゆる那智のたかねに月たけて 光をぬける滝の白糸
(上・秋 382)
(訳)雲が消えた那智の高嶺に月が天高く上って、冴えわたっている。その月の光を滝の白糸が貫いていることだ。
『金槐和歌集』から1首
源実朝(みなもとのさねとも。1192~1219)の家集『金槐和歌集』から1首。
那智の滝のありさま語りしを
み熊野の那智のお山にひく注連(しめ)のうちはへてのみ落つる滝かな
(雑 651)
(訳)熊野の那智のお山に引かれた注連縄のように、ただ長々と落ちる滝だなあ。
『中院詠草』から1首
藤原為家(ためいえ。1198~1275)の家集『中院詠草』から1首。
やまふかみさぞたかゝらし 都まで音にきこゆるなちの滝つせ
(雑 156)
(訳)山が深いので、さぞ高いらしい。都まで噂に聞こえている那智の滝は。
「たかゝらし」は「高くあるらし」の縮約表現。
「音」は滝の縁語。
『頓阿法師詠』から1首
頓阿(とんあ or とんな。1289~1372)の家集『頓阿法師詠』から1首。
那智ノ滝にて
山たかみ雲よりおつる滝つ瀬のあたりの雨ははるゝ日もなし
(訳)山が高いので雲から落ちるかのような滝であるので、滝の辺では滝の水が雨のようで晴れる日もないことだ。
(てつ)
2003.6.15 UP
2021.4.26 更新
参考文献
- 新潮日本古典集成49『山家集』 新潮社
- 新日本古典文学大系46『中世和歌集 鎌倉篇』 岩波書店
- 新日本古典文学大系47『中世和歌集 室町篇』 岩波書店