一遍上人爪書と伝わる磨崖名号碑
湯の峰温泉の熊野古道「赤木越」上り口には一遍上人(いっぺんしょうにん。1239~1289)が熊野参詣の際、路傍の岩に「南無阿弥陀仏」の名号を爪で書き刻んだものと伝えられる磨崖名号碑があります。
一遍上人は鎌倉中期から室町時代にかけて日本全土に熱狂の渦を巻き起こした浄土教系の新仏教・時衆(のちに時宗)の開祖です。南北朝から室町時代にかけて熊野信仰を盛り上げていったのは、時衆という仏教の一派でした。
時衆はのちに衰退し、熊野でも現在はかすかにその痕跡を残す程度になってしまいましたが、 その痕跡のひとつが和歌山県田辺市本宮町、湯の峰温泉にある磨崖名号碑(伝一遍上人名号碑)です。
県指定史跡 磨崖名号碑(伝一遍上人名号碑)
昭和42年4月14日指定
自然露見した巨大な岩盤に梵字・名号を大書した史跡で、高さ2.8m、幅2.4mの大きさである。月輪の中に阿弥陀三尊の梵字(古代インドで使われた文字)、その下に蓮台にのる六字名号が薬研彫りされている。時宗の開祖である「一遍上人の爪書(つめがき)」の遺跡とされているが、断定はできない。
田辺市教育委員会
阿弥陀如来が中央で、右に観音菩薩、左に勢至菩薩。
奉法楽
熊野三所権現十万本卒塔婆并
百万遍念仏書写畢南無阿弥陀仏
乃至法界衆成所願也
正平廿年八月十五日
正平20年(1365年)の銘があり、一遍上人が熊野本宮を訪れたのが文永11年(1274年)、亡くなったのが正応2年(1289年)なので、一編上人没後76年を経て刻まれたもののようです。時衆の僧が刻んだのを、後に一遍上人爪書名号碑として伝えられるようになったのでしょう。
和歌山県新宮市熊野川町日足の万歳峠近くにも一遍上人名号碑はあります。
(てつ)
2009.9.7 UP
2023.1.25 更新
2023.2.4 更新
参考文献
磨崖名号碑(伝一遍上人名号碑)へ
アクセス:
・JR新宮駅から熊野交通バス、奈良交通バス、明光バスの熊野古道スーパーエクスプレスで本宮方面行きバスで約1時間10分、湯の峰温泉バス停下車。徒歩1分。
・JR紀伊田辺駅から本宮・発心門王子方面行き龍神バスで約1時間40分、湯の峰温泉バス停下車。徒歩1分。
駐車場:湯の峰温泉に無料駐車場あり
湯の峰温泉を通る熊野古道レポート