■ 創作童話

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★ 我が輩は鵯(ヒヨドリ)である。(その10)   (正和 作)


 我が輩は鵯である。


我が輩は鵯である。(その10)       (正和)

 

   お花淵

「土呂(ドロ)」の川から少し下ると川の真ん中に大きな岩が有り、深く澱んだ淵に出る。ここは上地の(カミジ)集落のすぐ上手の河原になり通称「お花淵」と呼んでいる。

その昔、お花さんと言う若い娘さんが恋に敗れ世を儚んで、われと我が身をこの淵に投げて亡くなったと言い伝えられ、人々は娘さんの冥福を祈って『お花淵』と呼ぶ様になったと云う。この娘さんは御主人夫妻のご先祖の分家に当たる方だとか聞いた事が有る。

その淵の処に有る「笠岩」(注、川の真ん中に大きな岩が、まるで笠の様になっていて、その下に入ると夕立なんかが降ってきた時でも全然濡れない、それはそれは大きな岩です)、その横に「すべり岩」と言って、斜めになっていて表面のつるつるとした、これもまた大きな岩があり、昔から子供さん達は、この岩を滑り台にしてお花淵に滑り込んでよく泳いだと話している。

その岩の上と「笠岩」の上に丸い窪みが有り、そこから赤い色がまるで血を流したように残っている。それは昔、この岩の上で子供を抱いて座っていたお姫様を、隣の集落「武住(ブジュウ)」の方から越えてきた賊の一人が街道の所から弓で射たのだと言う。

昔からの街道の道端には、その矢を研いだ「矢研石」が今でも残っている。そのお姫様は籠山桑原末次兵衛に縁のある方なのか、また、何処かの方なのか、詳しい事は御主人も知らないらしい。

この「滑り台」も戦時中に木材を流送するのに邪魔になるので割って取り除こうとしたが、大きすぎて出来なかったらしい。しかし、その後の大水で傾いて平らになり、今では滑り台のようをなさない。

我が輩は「笠岩」の上に止まり、「ああ…人間様の歴史も我が輩達の歴史と同じように悲しい事や哀れな事、また、楽しかった事や嬉しかった事、幸福・不幸が織りなす、万華鏡の様なものだと感じた。

ピー子さんも、なにを想ってか、ただ黙って、じいっと川面を眺めていた。

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 このお話は、私が最近知り合った本宮町に在住の正和さんという方の創作童話です。
 正和さんの許可を得て、こちらに転載させていただくこととなりました。
 今回のお話は、正和さんがお住まいの皆地(みなち)を舞台にした物語です。

 皆地には皆地生き物ふれあいの里があります。
 皆地いきものふれあいの里では、約20ヘクタールの敷地のなかに「ふけ田」と呼ばれる湿田や森林があり、約600種類もの動植物を観察することができるそうです。観察室、標本展示室を備えた「皆地いきものふれあいセンター」も併設。駐車場あり、入場無料。

和歌山県田辺市本宮町皆地の観光名所

(てつ)

2009.6.30 UP

 

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