■ 創作童話

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★ 我が輩は鵯(ヒヨドリ)である。(その5)   (正和 作)


 我が輩は鵯である。


我が輩は鵯である。(その5)       (正和)

 

   キャベツ

生き物ふれあいの里で夏を越そうと、ピー子さんと2人(2羽)で決心した我が輩達だが初めての暖かな国での夏の生活は、すべてが未知のことばかり。

第一食糧の確保が大変だ。困った事に、鶇(ツグミ)君達が北の国に旅立つ前に、横垣内(ヨコガイト)の畑に御主人様が奥様と丹精込めて作っている野菜があり、その中に良く栄えている葉に黒っぽい筋の入っている野菜を一口頂戴してみたが、美味は美味だが、ピリッと辛い事。美味しさがその辛みに消されて口の中がしばらく感覚が無いようになる。いやはや人間様はこの野菜のどこが美味しいのか?

話を聞けばこの野菜は「たかな」と言って、葉を塩漬けや、米糠を入れたどぶ漬けにして、それでご飯を包んで食べるそうだ。御主人様の子供の頃には学校の遠足などがある時には必ずお弁当に持って行った様で、大きな葉で握ったので食べる際に口をいっぱいに開いて食べなければならず、その際、目も大きく見開いて食べたので「めはり寿司」と名が付いたと言う。現在でも「熊野のめはりずし」と言って有名だそうだ。ぴりっとした辛さを好んで食べる人間が多いらしい。が、我が輩達は「めはりずし」は食べれないし、辛い葉は遠慮する事にした。

そのうちに別の野菜で奥様達が「きゃべつ」そして「ブロッコリー」と呼んでいる厚みのある野菜ができてきた。まず試しに「ブロッコリー」の方を一口食べてみた。この葉は人間様は食べないらしいが、我が輩達にはまず食べれる味だ。次に「きゃべつ」の方を食べてみた。この葉は人間様も食べるらしく、とても美味しい。ピー子さんは「美味しいネ、美味しいネ」と言いながら夢中で頬ばっている。しかし植えて間がないのでまだ小さくて、あまり食べてしまうと後の葉が出て来ない様になるのではと途中で止める事にした。

ところが2、3日すると新しい葉が大きく成ってくる。またピー子さんと2人(2羽)で食べていると、運悪く鶇君に見つかってしまったから、さあ大変。彼等の食欲は我が輩達よりはるかに上だ。パリパリ、パクパクと食べるので、見る間に1株の「きゃべつ」は茎だけになってしまった。初めのうちは「ピー助達はきゃべつの葉っぱが好きらしいな」と笑って見てくれていた御主人様も「これまでやられるとは。いやはや、困ったなあ」と、頭を抱える始末。

奥様も「これでは苗が全然育たないね。どうにかせなければ…」と首を傾げている。御主人様は「これはピー助達だけではない。鶇の大食漢がいるからだ。可哀相だが、仕方がない。ちょっと防禦するか」とこの野菜に網をかけてしまいました。

その後,鶇君達は北の国に帰ったから良い様なものの、残っている我が輩達には困った出来事だ。水分をたくさん含んだ葉は喉の渇きを癒してくれるしビタミンも多く含んでいるので健康にも良いのだが、もう食べれない。恨めしそうに2人(2羽)で網を見つめたが、所詮どうする事も出来ない。

まあ、仕方が無い。御主人様が網をはずしてくれるまで待つより他に方法は無い……か

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 このお話は、私が最近知り合った本宮町に在住の正和さんという方の創作童話です。
 正和さんの許可を得て、こちらに転載させていただくこととなりました。
 今回のお話は、正和さんがお住まいの皆地(みなち)を舞台にした物語です。

 皆地には皆地生き物ふれあいの里があります。
 皆地いきものふれあいの里では、約20ヘクタールの敷地のなかに「ふけ田」と呼ばれる湿田や森林があり、約600種類もの動植物を観察することができるそうです。観察室、標本展示室を備えた「皆地いきものふれあいセンター」も併設。駐車場あり、入場無料。

和歌山県田辺市本宮町皆地の観光名所

(てつ)

2009.6.24 UP

 

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