■ 創作童話

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★ 我が輩は鵯(ヒヨドリ)である。(その3)   (正和 作)


 我が輩は鵯である。


我が輩は鵯である。(その3)       (正和)

 

その結果、御主人は、我が輩にこの話をしても聞いてくれないと思ったのだろう、なにか始めました。ブロック塀の所に木を1本立てて、その木から次郎柿の木にナイロンテープを張り渡して、丁度ピラカンサの近くにくるように菓子の空箱に目玉を書いて吊り下げて、その回りにヒラヒラとよく目立つよ紐などを取り付けました。

御主人は「これでよし。鳥達もこれに遠慮するだろう。悪く思うなよ。『食べるな』と言うわけじゃない。少しすれば取り外してやるからな」と、呟きながら横手の畑(その畑は横垣内と言うそうだが)に歩いて行き始めました。

だが誠にお気の毒な事だが、さすがの御主人様も、我が輩達の心理状態までは判らないらしい。雀君や烏さん達は、目が怖くて人の目に合えば、すぐに逃げ出す。この菓子箱の目玉も彼らには怖いものに写るだろうが、我が輩や鶇(ツグミ)君には少しも怖いとは感じない。

聞く所に依れば湯の峰温泉の八日薬師には願いを込めた旗や幟がたくさん吊り下げられているとか。又、川湯温泉の十二薬師には大塔川の両岸に張り渡したロープにその年の干支や飛行機やダルマさんなど、実にいろいろの張り子の模型が吊り下げられると言う。

我が輩達の為に御主人がお祭りをしてくれている位の気持ちで、又、賑やかに実をぱくついた。その様子を眺めていた奥さんが「お父ちゃん、お父ちゃん」と、御主人を呼び止めて我が輩達を指差してニコニコと笑いました。

その声に御主人は振り返り、この様子を見て引き返して来ました。いや我が輩達の事を心配して一生懸命にやったことを無にしたのだから御主人の心中は穏やかではないだろう。その顔は大変怒って居るように見えたので「これはいけない。ピー子逃げよう」。我が輩達はピーピー鳴きながら次郎柿のてっぺんに避難しました。

鶇君は地面に飛び下りて、つつじの木陰を「ぐつぐつクツクツ」と鳴きながら走って逃げた。その鳴き声が丁度、人間様の笑い声によく似ている。しかもそれが、含み笑いの様に聞こえるので、御主人には、私達が「ヤーイお馬鹿さん。こんな物を吊るしても少しも怖い事は無いんだよ。くつくつ、ぐつぐつ」と笑っている様に聞こえたのか、あまり上品ではない言葉で「この野郎。掴まえて焼き鳥にするぞ」と大声で怒鳴りました。そして、なにやら呟きながら、折角作った脅しをみな取り外してしまいました。

しかし我が輩は考えました。
この食べ物の少ない時に、実がまだ赤くならないうちに、みな食べてしまったら、寒くなれば本当に飢えてしまうかもしれない。これは御主人様が考えて下さるよりも先に、自分達が考えなければいけない事だ」と、気が付きました。

それでピー子さんや鶇君達と相談して「ジョウビタキ君は小食だから良いけれど私達はこれから、もっと外の食糧を見つけて、このピラカンサの実を食べるのを制限する事にする」と約束しました。考えてみれば、今まで人の良い御主人に甘えて、お腹いっぱいに食べていたので、ピー子さんなんかもすっかり太り過ぎで、腰の回りなど贅肉が付き、このままだと人間様の言う成人病とやらに懸かる恐れがある。

この家の御主人夫妻でさえ、いつも食事の様子を窓のガラス越しに見ていると、朝は御飯をお茶碗1膳、昼はパン1切れにリンゴとそれに家で作っている甘夏など、夕食も御飯はたった1膳、副食には充分気を使っている様だが決して食べ過ぎる様な事はしない。これは我が輩達も見習わなければならない事だ。ピー子さんも「本当にピー助君の言う通りだわ。私この頃太り過ぎて長く飛ぶと心臓が苦しいのよ。これからはご主人様を見習って、食事に充分気をつける事にするわ」と申しました。

それからは油を多く含んだピラカンサの実を少しにして、外の草の実などを探して食べる事にしました。

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 このお話は、私が最近知り合った本宮町に在住の正和さんという方の創作童話です。
 正和さんの許可を得て、こちらに転載させていただくこととなりました。
 今回のお話は、正和さんがお住まいの皆地(みなち)を舞台にした物語です。

 皆地には皆地生き物ふれあいの里があります。
 皆地いきものふれあいの里では、約20ヘクタールの敷地のなかに「ふけ田」と呼ばれる湿田や森林があり、約600種類もの動植物を観察することができるそうです。観察室、標本展示室を備えた「皆地いきものふれあいセンター」も併設。駐車場あり、入場無料。

和歌山県田辺市本宮町皆地の観光名所

(てつ)

2009.5.4 UP

 

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