大地がつくりだした聖地、熊野
大地に着目して大地から熊野を紹介するガイドブックです。熊野の聖地や人々の暮らしを大地の成り立ちから解き明かします。
本の副題の「大地がつくりだした聖地」というのはまさに私も実感していることで、信仰の根底に大地があることを熊野地方では体感することができます。
熊野にはお祀りせざるを得ないと思わせるような巨岩や岩壁が多くあります。それらの岩の多くは1400万年前の熊野であった火山活動でできた火成岩の岩体です。
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産である飛瀧神社や神倉神社や御船島、花窟神社は1400年前のマグマ活動でできた火成岩体を御神体とする聖地です。世界遺産以外では河内神社や丹倉神社、神内神社、黒尊仏もマグマからできた岩体を御神体とします。
あるいはそれより以前に浅い海底に堆積した礫や砂、泥でできた堆積岩体や、さらに古く海溝で深海の堆積物でできた付加体の岩体を母体とする岩塊をお祀りする聖地もあります。志古の稲荷神社や相須神丸の高倉神社は堆積岩体を母体とする転石からなります。また備崎の磐座群は付加体の砂岩層を母体とする転石であり、ちちさまは付加体の砂岩層にできたノジュール(団塊)をお祀りします。
熊野の南東部には火成岩体からなる山地があり、それが上昇気流を生み、大量の雨をもたらします。その雨が木々を育み、林業が栄えました。伐られた木は川の水の流れで運ばれました。熊野では鉱山も営まれましたが、金属資源も火山活動がもたらした大地の恵みです。温泉の高温の湯もまた火成岩体の岩脈に沿って地下深くから上昇していると考えられています。
本書を読めば、熊野の人々の信仰や文化、暮らしぶりが熊野の大地に支えられていることがわかります。
熊野のガイドブックというと熊野三山メインになってしまいがちですが、本書では広く熊野のさまざまな事柄を取り上げています。オススメの熊野本です。
著者の後誠介先生について
後誠介先生は和歌山大学紀伊半島価値共創基幹の災害科学・レジリエンス共創センターの客員教授。和歌山県那智勝浦町出身の教育者で、長らく地域の学校教育に尽力し、退職後に和歌山大学の客員教授になられました。熊野学研究委員会委員、南紀熊野ジオパーク推進協議会学術専門委員、環境省自然公園指導員などを務められ、熊野の価値を伝え広める熊野にとって重要なお仕事をされています。地質学がご専門で、私も様々なご教示をいただきました。
(てつ)
2021.11.1 UP
2021.11.9 UP