熊野古道「中辺路:高野坂」
リハビリをかねて熊野古道を歩きました。しばらく前までは松葉杖生活でしたので、遅いペースです。
今回歩いた熊野古道「中辺路:高野坂」は新宮から那智へ向かう海岸沿いの道の一部です。高野坂は「こやのざか」と読みます。
高野坂だけなら1時間ほどで歩けるので、今回は浜王子からスタートし、王子ヶ浜を歩いてから高野坂に入り、佐野王子まで歩きました。全体的に平坦な道ですが、王子ヶ浜では砂または玉砂利の上を1.2kmほど歩きます。約7kmの1時間45分ほどのコースです。
普通の体力がある人であれば、問題なく歩くことができると思います。時間に余裕のない方は高野坂(約1.5km)だけを歩いてもよいでしょう。
浜王子 → 高野坂 → 佐野王子(約7km;約1時間45分)
・大浜海岸バス停
・浜王子神社
↓(0.3km;5分)
・王子ヶ浜
↓(1.7km;40分)
・高野坂広角口
↓(1.0km;20分)
・金剛稲荷神社
↓(0.5km;10分)
・高野坂三輪崎口
↓(2.8km;55分)
・佐野王子跡
・王子橋バス停
なおこの所要時間には休憩時間・見学時間・参拝時間などは含んでおりませんので、その点はご注意ください。
※アクセス
大浜海岸バス停までは熊野交通バスの新宮市内線こみゅにてぃばす(右回り循環なら新宮駅から8分、左回り循環なら新宮駅から17分)をご利用ください。
新宮駅あるいは熊野速玉大社から歩くというプランもありです。新宮駅からは約8kmで約2時間、熊野速玉大社からは約10kmで約2時間30分です。
てつの熊野古道歩きレポート
2005.11.16(水)晴れ
12:40、浜王子神社に到着。ここまでは妻に車で送ってもらいました。みなさまは熊野交通バスの新宮市内線こみゅにてぃばすで大浜バス停下車してください。市街地に入ると浜王子神社の小さな森があります。
浜王子は新宮から那智まで現在5つある王子社のうちのひとつめの王子社。もともとは海の神を祭っていて、熊野信仰の発展とともに王子社となったものと考えられます。
古文献には名前の見いだせない王子社ですが、藤原定家の『後鳥羽院熊野御幸記』に新宮から那智までの道中、「この道にまた王子数多御坐す」とあり、そのうちのひとつがこの社だと考えられます。
12:52、浜王子神社を出発。市道を渡り、大浜(王子ヶ浜)へ。
浜沿いの歩道砂浜。浜は歩道に近い方は砂浜、波打ち際に近づけば玉砂利となります。
潮騒を聞きながら海を眺めて歩きます。
左手に鉄道の線路がありますが、頻繁に通ることはないので、あまり気にならないです。海の波音が案外小さく、心地よいです。
1:09、歩道が終わり、砂浜へ降ります。砂浜は歩くのが疲れます。
砂浜を歩いている間に2組の人たちとすれ違いました。このコースは私が今回歩いているのとは逆に歩いて熊野速玉大社を終点としたほうが達成感があってよいかもしれません。
後ろを振り返ると視界を遮るものがないので、長い距離歩いてきたように感じさせられます。
1:37、浜が終わり、岩山の磯に変わります。岩山の磯は御手洗(みたらい)海岸といいます。その地名は、神武天皇が熊野の女酋長ニシキトベを討った際に、手に付いた血をこの磯の海水で洗ったという故事に因むとか。ここで熊野詣の人々も海水で身を清めたのでしょう。
御手洗海岸の熊野古道が世界遺産に登録されている「高野坂」で、浜の南端付近からJRのガード下、逆川の横を通って上がったところに、トイレや高野坂の案内板があります。
広角バス停からここまでたぶん15分ほどで来れると思うので、広角バス停からスタートするのもありです。
「高野坂」の名は、この辺りの地名が「広角(ひろつの)」で、その古名「広つ野」から「広野」で「コウヤ」となり「高野」となったのでしょう。
1:42、逆川にかかる橋を渡ります。
坂といいますが、標高100m足らずの丘陵地なので、それほどたいしたことはありません。上り下りはありますが、全体的にはなだらかな道です。
海から離れた方が潮騒が大きく聞こえます。
1:48、御手洗の念仏碑。三体の石碑が建っています。三体とも江戸時代の中頃に建てられたもので、真ん中が地蔵、左右の二体は「南無阿弥陀仏」の六字名号が彫られた板碑。江州伊香郡、大坂天王寺村の地名などが見えます。お花を供えている方がいらっしゃいました。
ここからの眺めがなかなかいいです。王子ヶ浜が見えます。
1:58、孫八地蔵。高野坂の中ほどにある地蔵。由来はわかりませんが、「孫八地蔵」と呼ばれています。江戸時代初期に建てられたようです。
孫八地蔵のそばに「寿門山の五輪塔」の案内板があるので、古道からいったん離れますが、行ってみます。100mほど行くと、岬の突端部付近、天然林のなかに五輪塔がありました。2:03。
潮の匂いがします。ウバメガシごしに海が見えます。五輪塔は寛永5年(1628)に建てられたものですが、それのはるか以前から聖地であったことが想像できる場所でした。
2:10、古道に戻り、2:12、開けた場所に出ます。道の横は笹薮だったり畑だったり。
2:17、金光稲荷神社。入ってみると昼なお暗い森。江戸時代に、この森を「おな神の森」と呼んだようです。
2:25、おな神の森を出て、すぐ近くにある休憩所へ。そこからの眺め。
かつてこの休憩所の付近に、本山派山伏(天台宗系)を率いた聖護院宮が熊野三山を巡るときに利用した休憩所がありました。
2:27、正面遠くに久島、鈴島が見えます。三輪崎口まであと少し。展望台の案内があったので古道を外れますが、行ってみます。
畑の横や笹薮、天然林を抜け、2:32、展望台へ。展望台からの眺め。
展望台近くには首塚などがあります。どういういわれのある首塚なのか。
2:42、古道に戻ります。
猫の声がする、と思って立ち止まったら足下に猫が近づいてきてまとわりついてきます。かまわず歩き始めても、付いてきます。しばらく付いてくるので、仕方ないの、食べ物を少しあげます。
猫が食べている間に歩き出しましたが、じきに追いつかれてしまいました。仕方ないの、また食べ物を少しあげて、また、猫が食べている間に歩き出します。今度は追って来ませんでした。
立派な石畳。
車の音が聞こえます。もうすぐ高野坂も終わり。
2:50、石畳、終わり。石畳は50mほどの長さでした。
2:52、高野坂三輪崎口。これで高野坂終了。ここから三輪崎バス停まで5分ほどですので、ここで熊野古道歩きを終了してもよいでしょう。今回の私の歩き方とは逆に行く場合はここからスタートするとよいと思います。
私は佐野王子まで行くのでまずは海の方へ。2:55、踏切を渡る。海沿いの道をしばらく行きます。
塀などに付けられた道標に従い、三輪崎の民家の間を縫って進みます。
3:10、三輪崎小学校。
3:15、国道42号へ。
国道沿いの歩道を歩きますが、交通量が多いので、車の排ガスが気になります。国道に出た時点で古道歩き終了にしてもよいと思いますが、もう少しで佐野王子なので行ってみます。
途中で横断歩道を渡ります。スーパーセンターオークワが見えたらもうすぐです。バス停の背後に写る小さな森が佐野王子跡。
3:40、佐野王子到着。佐野王子は若一王子(にゃくいちおうじ)とも呼ばれ、神域一帯を「若一王子の森」と呼んだそうです。かつては周囲240間(約432m)もある森だったということです。『修明門院熊野御幸記』には「次いで佐野があり、昼食を取る。次いで王子に参る」とあります(原文は漢文)。すぐ近くに王子橋バス停があります。
傍らには尼将軍の宝篋印塔(ほうきょういんとう)が立っています。尼将軍とは北条政子のこと。
海、潮騒、潮の香り、海岸性の照葉樹林。海や浜辺の明るさと森のなかの暗さ。他の熊野古道では味わえない良さがこの高野坂にはありました。
道しるべがあるので、道に迷うことはないと思いますが、地図を携帯されることをお忘れなく。
(てつ)
2005.12.1 UP
2020.3.23 更新
参考文献
- 観光案内所などに置かれている熊野古道のガイドマップ
- 宇江敏勝監修『熊野古道を歩く (歩く旅シリーズ) 』山と渓谷社
- 山本殖生 監修『熊野―異界への旅』 別冊太陽 平凡社
- 『熊野古道公式完全ガイド―紀州和歌山県版』扶桑社ムック
大浜海岸バス停へ
アクセス:
・JR新宮駅からバス(右回り循環なら新宮駅から8分、左回り循環なら新宮駅から17分)、大浜海岸バス停下車