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熊野本宮大社例大祭・本宮祭 湯登神事(ゆのぼりしんじ)

 和歌山県田辺市本宮町本宮 本宮:紀伊続風土記(現代語訳) 本宮村:紀伊続風土記(現代語訳)

本宮祭の始まりを告げる神事

湯登神事
月見岡神社での八發神事(やさばきしんじ)

 熊野本宮大社の例大祭・本宮祭は4月13日から15日の3日間かけて行なわれます。地域の安泰と豊作、そして子どもの健やかな成長を祈るお祭りです。

 本宮祭は4月13日の「湯登神事」に始まります。ここでは「湯登神事」についてご紹介します。

稚児

 湯登神事の主役は小さな羯鼓(かっこ:雅楽で使われる打楽器)を首から胸に下げた稚児(2、3歳の男の子)です。湯登神事には、稚児を肩車して歩く父親、稚児の母親、神職、修験者、伶人(楽を奏する人)、氏子総代などが参加します。

 稚児は神が降臨する依代(よりしろ:神が出現するための媒体となるもの)です。湯登神事の最中、稚児は神聖な存在であり、地面に足を付けることが許されず、移動の際は父親が肩車をしていなければなりません。 稚児を肩車する父親は「ウマ」と呼ばれます。父親が当日参加できないときは祖父などがウマをする場合もあります。稚児の母親は稚児や夫のサポートをします。

神歌

 午前9時半頃に本殿前で祝詞奏上、玉串奉奠などを行ったのちに列を整えて出発します。旧JRバス本宮駅まで氏子総代が神歌を歌いながら行列して歩きます。駅からはバスで湯の峰へ。

歌 ならのはおとと こがねのすずこそ ならしみかぐら やよう ありや そうやそ ありや そやそ

囃 しらまゆみしらまゆみ やがていのりのかどをこそ

 歌の意味はたぶん、楢(ナラ)の木の葉擦れの音と黄金の鈴を鳴らして音楽や舞を奉納します、という感じでしょうか。

 ナラの葉音については、ナラの木の切り取った枝を人が持ってそれをゆすって葉音を鳴らしたのでしょうか。それとも風がナラの木をゆすって葉音を鳴らしているなか神事を執り行う情景を歌ったものなのでしょうか。わかりませんが、いずれにしてもナラの木の葉音に神的なものを感じていたのでしょう。

湯垢離

 湯の峰では老舗旅館「あずまや」さんに入リ、旅館の浴場で入浴します。湯の峰の湯は強力な浄化力をもつとされ、湯登神事の参加者はその湯で身を清めます。湯で心身を清めることを湯垢離(ゆごり)といいますが、湯の峰は本宮参拝前に湯垢離を行う場として利用された温泉でした。湯垢離の後、旅館で昼食をとります。

 湯の峰での湯垢離は、湯登神事の参加者が心身の罪穢れを祓い、神聖な状態へと移行するための重要な儀式です。湯垢離の後、稚児の額には朱色の「大」の文字が記されます。神は稚児の頭に宿るとされます。

 「大」の文字は神道では神や神事の神聖さ、尊さを表すのに用いられるので、稚児の額の「大」の文字は稚児が神が降臨する神聖な存在となったことを表しているのでしょう。また「大」の文字には健やかに成長して大きくなれますように、大人になれますようにとの願いが込められているといわれます。

八撥神事

 午後1時頃に旅館を出発。湯の峰王子にて祝詞奏上、玉串奉奠などを行ったのちに稚児による八撥神事(やさばきしんじ)を行います。

 八發神事では、稚児を地面に敷いた茣蓙に下ろし、笛と太鼓と氏子総代の「さがりやそう」「あがりやそう」「さがりやそう」の掛け声に合わせて、父親が手を添えて稚児を回します。「さがりやそう」の掛け声で左回り(反時計回り)に3回、「あがりやそう」で右回り(時計回り)に3回、最後の「さがりやそう」で左回りに3回。稚児に神を憑依させるための儀式だといわれます。

 稚児が眠っているなどのときは父親が肩車したまま、あるいは胸に抱いて、父親自身が回ることで稚児を回します。

 もともとは稚児が羯鼓を打ちながら回っていたのでしょうが、現在は八發神事の中で稚児に羯鼓を打たせることは行っていません。

 八發という字は本宮では「やさばき」と読んでいますが、この字の本来の読み方は「やつばち」です。八發(やつばち)の「やつ」は両の意、「ばち」は太鼓のバチで、羯鼓の別名です。羯鼓を首から胸に下げ、両手にバチを持ち、打ちながら踊ることも八發(やつばち)といいます。發の字は音読みはハツ・ハチ・バチで、訓読みは、は(ねる)・かか(げる)・のぞ(く)・おさ(める)。なぜ本宮で「やさばき」と読むのかわかりません。

 左右左(反時計回り、時計回り、反時計回り)の順に回るのはきっと何か意味があって、神が憑依する際の過程を表しているのでしょう。

大日越

 湯の峰王子で八發神事を行ったのち、熊野古道・大日越で大日山の峠を越えて本宮へ向かいます。途中、峠の鼻欠け地蔵と南無阿弥陀仏の石碑のある前で修験者が読経を行います。

 山中の月見岡神社で再び八發神事を行います。修験者は隣の大日堂の前で読経を行います。

湯登神事
札の辻での奉告

 湯の峰からおよそ2.5kmの山越えを終えて、熊野本宮本来の入口であった旧社地・大斎原の西の鳥居のある「札の辻」と呼ばれる場所から大斎原に向かって拝礼して解散。

 夕方午後5時からは「宮渡神事」が執り行われます。

(てつ)

2025.6.28 UP

参考文献

熊野本宮大社へ

アクセス
・ JR新宮駅から熊野交通バス奈良交通バス明光バス熊野古道スーパーエクスプレスで約1時間15分、本宮大社前バス停下車
・JR紀伊田辺駅から龍神バスで約2時間、本宮大社前バス停下車

駐車場:無料駐車場あり

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